今日の国際ニュース

出典:The New York Times (DealBook)(https://www.nytimes.com/2023/07/20/business/dealbook/blackstone-trillion.html)

このニュースを読んだとき、私は見出しの大きさより、その裏で実際に動くお金が気になりました。

2023年7月20日、ニューヨーク・タイムズは、ブラックストーンがプライベートエクイティ業界で初めて運用資産(AUM)1兆ドルに到達したと報じた。

1985年にわずか2人、40万ドルの運用から始まった会社が、ブラックロックやフィデリティといった投資信託大手、JPモルガンのような銀行大手と肩を並べる規模にまで育った、という記念碑的な数字です。

シュワルツマンCEOは声明で「投資家との間に築いてきた並外れた信頼の証」と述べ、さらなる拡大の余地を強調した。

しかし同じ決算発表の中に、もう一つの数字が埋もれていた。前四半期の分配可能収益、つまり投資家に実際に還元できる原資が、前年比で約4割も減っていたのです。

さらに、金利上昇による負債コストへの懸念とオフィス稼働率の急落を受けて投資家が旗艦不動産ファンドから資金を引き揚げようとし、ブラックストーンは解約を制限する事態に追い込まれていた。

ここに注目した

「1兆ドル到達」という見出しと「分配可能収益4割減・解約制限」という事実が、同じ記事の中に同居しています。ここに、規模の物語と収益の実態がずれ始めているという兆候が隠れている。

ニュースの見出しは、映画の予告編のようなものです。面白そうでも、結末までは分かりません。投資では、その先の数字を確かめます。

AUMとは何を測る数字なのか、整理しておきたい。AUMは運用会社が預かっている資産の残高であり、株価や不動産評価額が上がれば何もしなくても膨らむ「ストック」の指標です。一方で分配可能収益は、実際に稼いで投資家に配れる「フロー」の指標です。

ブラックストーンはもともとレバレッジド・バイアウト、つまり借金を使った企業買収のディール収入に依存する会社でした。

それが1991年に始めた不動産事業を軸に、ヘッジファンド、信用取引、インフラ投資へと多角化する過程で、預かり資産に応じて管理報酬を得る「資産収集型」のビジネスモデルへと転換していった。この転換自体は、収益源を分散させ安定性を高める合理的な経営判断だったと言えます。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「経営者を見る」「流動性」「構造を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

ただしこの転換には、見落とされやすい副作用があります。フィー収入の基盤そのものが、不動産や証券の評価額というAUMに連動しているという点です。金利が上がれば不動産評価額は下がり、オフィス需要は細り、レバレッジド・バイアウトの新規組成も鈍る。

つまりFRBの利上げという一つの原因から、AUMの見かけの規模と分配可能収益の実態という二つの異なる結果が同時に生まれている可能性があります。プライベートエクイティ部門は安価な資金調達手段を失って収益性が落ち、不動産部門は評価下落と解約圧力に直面した。

AUMが過去最高を更新した裏側で、稼ぐ力そのものは前年の6割水準まで落ち込んでいた、と言い換えれば、この乖離の意味がはっきりする。

ここで注意したいのは、記事に出てくるシュワルツマン氏の前年報酬12.6億ドルという数字です。これは分配可能収益が4割減った四半期と同一の数字ではなく、時期がずれている。経営陣の報酬水準と投資家への現実の分配実績を同じ物差しで比べるべきではありません。

この点を混同すると、規模の物語にさらに引きずられてしまう。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

では、この記事から株価やバリュエーションへの市場の反応は読み取れるのか。結論から言えば、読み取れない。今回のニュース記事にはブラックストーンの株価推移や時価総額(会社の株全体についた値段)、資金フローの実額についての記述が一切ない。

1兆ドル到達というニュースを市場がどう織り込んだのか、分配可能収益の減少と解約制限をアナリストがどう評価したのかは、この記事だけでは分からない。

もし投資判断の材料にするなら、直近の株価チャート、アナリストレポート、そして解約制限が今も続いているのか解除されたのかという最新の開示を、自分で確認する必要があります。分からないことを分かったふりで埋めてはいけない。

規模の拡大は、もう一つの副作用も生んでいる。住宅ローン、企業向け融資、保険まで手を広げたブラックストーンのような投資会社の存在感の大きさは、ワシントンでの懸念材料にもなっている。

共和党への献金で知られるシュワルツマン氏と、民主党への献金で知られる後継者のグレイ社長という組み合わせは、この会社が政治的にも無視できない規模に達したことの象徴でしょう。ただし規制がどう動くかは、今回の記事からは分からない。分からないことは、分からないままにしておく。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

投資家として今後注目すべきは3点に絞られる。一つは分配可能収益の四半期推移がAUMの成長率に対してどう動くか、乖離が広がり続けるのか縮まるのか。二つ目は、不動産ファンドの解約制限がいつ解除されるのか、そしてその制限が信用取引やインフラ投資といった他の非流動性戦略にも波及するのか。

三つ目は、FRBの金利動向と、それに連動したプライベートエクイティ部門のディール組成再開のタイミングです。もし次の四半期以降、分配可能収益がAUMの伸びに見合う形で回復し解約制限も解除されれば、今回の乖離は一過性のノイズだったということになります。

逆に乖離が固定化するなら、規模の物語とは別に収益体質の劣化が進行していると考えるべきです。

さて、冒頭に戻ろう。「運用資産1兆ドル」という見出しは、たしかに歴史的な到達点です。しかし同じ決算発表の中に分配可能収益4割減と解約制限という事実が同居していたという事実こそ、この記事が本当に教えてくれることです。

投資判断の物差しを、AUMという規模の指標から分配可能収益という稼ぐ力の指標に切り替えた瞬間、見える景色は一変する。

有名だから、業界最大手になったから、という理由で株を買うのは、シュワルツマンCEOが胸を張った「1兆ドル」という数字に乗っかっているだけであり、事業の本質を理解したことにはならない。

ブラックストーンという会社の本質は、40万ドルを運用する2人の会社から、ディール収入に頼るバイアウト業者を経て、預かり資産に応じた管理報酬で稼ぐ資産収集業へと形を変えてきた、その経営判断の積み重ねにある。

もしこの会社に長期で投資する理由があるとすれば、それは1兆ドルという規模そのものではなく、その規模を支えるフィー収入がどれだけ金利や資産評価の変動に耐えられる構造になっているか、という一点に尽きる。

短期の株価が今回のニュースにどう反応したかはこの記事だけでは分からないし、分かったところで長期の投資理由にはならない。むしろ確認すべきは、分配可能収益とAUMの乖離が一時的な金利ショックによるものなのか、それとも資産収集型モデルそのものに内在する構造的な脆さなのか、という問いです。

当初の投資理由が「多角化による安定したフィー収入」だったのなら、その前提が崩れていないかを、四半期ごとの分配可能収益の動きで確かめ続けること。それが、この記事から引き出せる実践的な結論です。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「「運用資産1兆ドル」の陰で分配可能収益が4割減ったブラックストーンが教えること」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2023年7月20日、ニューヨーク・タイムズは、ブラックストーンがプライベートエクイティ業界で初めて運用資産(AUM)1兆ドルに到達したと報じた。
  • ここで注意したいのは、記事に出てくるシュワルツマン氏の前年報酬12.6億ドルという数字です。
  • ブラックストーンという会社の本質は、40万ドルを運用する2人の会社から、ディール収入に頼るバイアウト業者を経て、預かり資産に応じた管理報酬で稼ぐ資産収集業へ…
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

ニュースと投資判断の間に、一呼吸おく

良いニュースが出た会社が、良い投資先とは限りません。ニュースは入口。最後は、事業が自分の言葉で説明できるか、経営者に共感できるか、10年持つ姿を想像できるかを確かめます。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。