WORLD NEWS
今日の国際ニュース
出典:The New York Times(Business, Square Feet)(https://www.nytimes.com/2025/12/26/business/sears-seritage-edward-lampert.html)
不動産のニュースを見るとき、私は建物の立派さより、そこへ誰が来て、誰がお金を払うのかを考えます。
フロリダ・オーランドの賑わったショッピングモールの中で、シアーズの店だけが妙に静かでした。記者が訪れた日、店内にいた買い物客はグスマンさん一家だけだったという。彼は今年この街に引っ越してきて、近所にまだシアーズが残っていることに驚き、喜んです。
30年来の顧客だった彼は、家電や工具をここで買い続けてきた。「自分の子どもたちは、シアーズを覚えていないでしょうね」と彼は言う。
全米にシアーズはもう5店舗しか残っていない。業界の専門家は、遠くない将来にその灯も消えるだろうと見ている。ただしこれは確定した閉店計画ではなく、あくまで専門家の予測にとどまる。この記事が最終的に教えてくれるのは、単なる小売の栄枯盛衰ではありません。
むしろ「不動産の価値は、誰がその価値を支配しているかによって決まる」という、もっと硬い投資の物差しです。
POINT 01
ここに注目した
かつてシアーズは、時価総額(会社の株全体についた値段)200億ドルを超える米国有数の小売企業でした。2005年にヘッジファンド運用者エドワード・ランパートがシアーズとKマートを合併させたとき、投資家たちが期待したのは単純でした。店舗としては死んでも、土地としては生きている。
家を買うとき、玄関のきれいさだけでは決めません。毎月いくら入り、修理にいくら出ていくかを見る。不動産や企業への投資も同じです。
全米3400店以上を自社所有していたシアーズには、莫大な含み資産があったからです。
その含み資産を現金化する装置として2015年に作られたのが、REIT(みんなのお金で不動産を持つ仕組み)のセリテージ・グロース・プロパティーズです。シアーズは約250店舗を27億ドルでセリテージに売却し、その大半を自らテナントとして借り戻した。
狙いは明快で、まずシアーズからの賃料収入で手元に入るお金を確保し、それを元手に商業施設などへ再開発し、より高い賃料を得る。ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイもこの構想に賭け、株式を取得したうえで16億ドルを超えるタームローンをセリテージに貸し付けた。
しかし2025年末の今、シアーズは消滅寸前、セリテージも資産売却によって静かに清算されつつある。株価はピーク時の50ドル超から4ドル未満まで落ち込んです。
ここで大事なのは「小売が衰退したからREIT(みんなのお金で不動産を持つ仕組み)も巻き添えになった」という単線の因果で終わらせないことです。実際に起きていた構造はもう一段深い。

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「Love & Live」「経営者を見る」「流動性」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。
POINT 02
なぜ重要なのか
ランパートは、シアーズの会長・CEOであり、自身のヘッジファンドESLインベストメンツを通じてシアーズ最大の債権者でもあった。さらに2022年まではセリテージの会長も兼ねていた。つまり彼は、賃料を払う側、賃料を受け取る側、そして資金を貸す側という、取引の三方向すべてに同時に立っていた。
この一人三役の構造こそが、両社が同時に沈んでいった本当の理由だと専門家は指摘しています。
本来、賃料支払いの優先順位や再開発資金の配分は、賃借人と貸主、株主と経営者の間の緊張関係の中で規律づけられるべき意思決定です。しかしランパートが両側の椅子に座っている限り、その緊張は働かない。
実際、シアーズの破産後、債権者はランパートらが一連のインサイダー取引で20億ドル相当の資産を抜き取ったと訴え、2022年に1億7500万ドルの支払いで和解しています。
POINT 03
初心者は何を理解すればいいか
ここは、三つに分けると分かりやすくなります。
投資のお金の流れを一段ずつ追ってみる。まずネット通販の拡大とウォルマートやホームデポとの競争激化という外部環境の変化があった。これに対しシアーズ経営陣は、店舗改装や設備投資にはほとんど資金を回さず、コスト削減とオンライン施策で応じた。結果として店舗の魅力は落ち、閉店が加速する。
閉店が加速すれば、セリテージに入るはずの賃料収入は先に消える。ところが再開発による新しい高賃料収入は、工事や許認可に時間がかかるためすぐには追いつかない。専門家が指摘する通り、賃料相場自体もセリテージ設立の2015年前後がピークで、その後の小売破綻の波で下落局面に入っていた。
つまりタイミングの悪さと、構造的な利益相反が同時に効いていた。
ここで立ち止まるべきポイントがあります。シアーズの店舗閉鎖という需要縮小自体は、経営者が誰であっても起きた可能性が高い外部要因です。
しかし、そこで生まれた損失をセリテージがどれだけ早く再開発収益で埋め合わせられたか、そのスピードと優先順位の決定に同一人物が両側から関与していたことは、外部環境とは別の、会社がお金をどこへ振り分けるかそのものの問題です。
ここを区別せずに「小売が終わったからREIT(みんなのお金で不動産を持つ仕組み)も終わった」とまとめると、本当の教訓を取り逃す。
なお、セリテージ株の具体的な出来高推移やバークシャー融資の返済条件の詳細、REIT(みんなのお金で不動産を持つ仕組み)セクター全体の資金フローは、この記事の情報だけでは分からない。
今後似たような不動産REIT(みんなのお金で不動産を持つ仕組み)への投資を検討するなら、その企業の賃料収入がどれだけ特定の一社、しかも経営が苦しい一社に依存しているか、そしてその契約条件を誰が決めているかを、決算資料や契約開示から自分で確認する必要があります。
ここは推測で埋めるべきではない部分です。
POINT 04
今日、投資行動を変える必要は?
ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。
もう一度、あのオーランドのシアーズに話を戻したい。グスマンさん一家がそこで見つけたのは、便利で懐かしい店でした。でも、その便利さや懐かしさは、投資判断の物差しにはならない。
確認すべきなのは、人気があるか、株価が過去に上がったか、有名な投資家が関わっているかではなく、その事業がシンプルに腹落ちするビジネスなのかどうかです。
セリテージという構想自体は、悪いアイデアではなかった。老朽化した小売の土地を、価値の高い複合開発に変えるという事業の本質は、今でも十分に面白い。問題は経営者でした。
ランパートは椅子を面白く使いこなした経営者ではなく、賃料を払う側と受け取る側の両方の椅子に座り続けた経営者であり、その構造そのものが、セリテージという事業の本質を最初から歪めていた。バフェットが当初見ていた投資理由は、おそらく「シアーズの浮沈とは独立した不動産価値の顕在化」だったはずです。
しかし実際には、セリテージの収益は最初から一社、しかも構造的に利益相反を抱えた一社の存続に縛られていた。投資理由の前提そのものが、最初から成立していなかったということになります。
長期投資というのは、株価が下がっても我慢して持ち続けることではありません。最初に自分が腹落ちした投資理由が、今も生きているかを定期的に問い直すことです。
セリテージの株価が50ドルから4ドル未満まで下がった過程そのものより、その下落の背後で「独立した不動産収益」という当初の前提が崩れていたことに気づけたかどうかが、投資家としての分かれ目でした。
シアーズという看板が消えていく5店舗の風景は、単なるノスタルジーの終わりではなく、誰が価値の椅子に座っているのかを見極める習慣を、次の不動産案件でも忘れるなという、地味だが硬い教訓を残しています。
POINT 05
5分で分かるまとめ
- 今回のニュースは「シアーズの最後の五店舗が教える、不動産投資の物差し」です。見出しだけで投資判断はしません。
- フロリダ・オーランドの賑わったショッピングモールの中で、シアーズの店だけが妙に静かでした。
- 本来、賃料支払いの優先順位や再開発資金の配分は、賃借人と貸主、株主と経営者の間の緊張関係の中で規律づけられるべき意思決定です。
- 長期投資というのは、株価が下がっても我慢して持ち続けることではありません。
- 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
- 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。
DETOUR
寄り道コンテンツ
不動産は、建物よりお金の流れを見る
同じ建物でも、借りる人がいなければ収入は生まれません。入ってくる賃料、出ていく修繕費、借金の金利。この三つを並べると、見た目だけでは分からない強さが見えてきます。
栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。
