今日の国際ニュース

出典:日経電子版(会員限定記事)(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB285HX0Y4A021C2000000/)

会社のニュースでは、派手な金額より『その後、誰がどう動くのか』を見るようにしています。

日興アセットマネジメントが仏ティケオー・キャピタルと手を組み、2024年内にシンガポールで共同出資会社を設立する。まず立ち上げるのは2.5億ドル、日本円で380億円規模のプライベートデット、いわゆる融資ファンドです。

同じタイミングで、東京の新興運用会社GIキャピタル・マネジメントも2号ファンドの準備を進めている。想定規模は3億ドル、世界銀行系の国際金融公社(IFC)から最大3000万ドルの出資が決まっており、残りの半分ほどを日本の金融機関から集めたい考えだという。

このニュースは一見、分かりやすい成長ストーリーとして読める。アジアの経済成長で資金需要が拡大し、銀行融資だけでは足りなくなったから融資ファンドが増える。成熟した米欧市場から資金がアジアへ移り始めている。日本でも銀行主導でこの市場が育ち始めている。

三段構えのこの説明で理解を止めてしまうと、今回の一次資料が本当に伝えたいことを取りこぼす。

ここに注目した

見落とされているのは、貸し手側、つまり日本の生保や地銀、信託銀行がなぜわざわざ為替リスクやカントリーリスクを取ってまで、アジアの融資ファンドに資金の半分を出そうとしているのかという問いです。

豪華な結婚式と、その後の暮らしは別です。企業の買収や上場も、発表の日より、その後に利益を育てられるかが大切です。

GIキャピタルの1号ファンドは投じたお金に対する収益の割合の指標であるIRRが22%に達し、三井住友信託銀行などが出資した。この水準の投じたお金に対する収益の割合は、いまの日本国内でまず得られない。

国内で運用先が枯渇した資金が、高いスプレッドを求めて海外に向かっているという供給側の事情を組み込むと、ニュースの因果は反転する。「アジアの成長が資金を呼び込んでいる」のではなく、「日本の運用難が資金を海外へ押し出している」という読み方です。

数字の意味も確認しておきたい。英プレキンの集計では、アジア太平洋のプライベートデット残高は2023年時点で約990億ドル。9000億ドルを超える北米の1割強に過ぎず、絶対水準はまだ小さい。だがこの小ささこそが魅力にもなる。

2017〜23年の年平均成長率16%がそのまま続くと仮定すれば、単純な複利計算上、残高はおよそ7年で2000億ドル規模へ倍増する計算になります。あくまで過去の成長率を機械的に伸ばした試算であり、この先も同じ速度が続く保証はない。

GIキャピタルのIRR22%についても、単年の投じたお金に対する収益の割合ではなく複数年運用を通じた内部収益率である点は見落とされがちです。見出しの数字をそのまま信じず、その数字がどんな前提の上に立っているかを毎回確認する習慣が、成長市場の話につきものの高揚感から距離を取る助けになります。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「経営者を見る」「流動性」「構造を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

ここで投資の伝達経路を一段ずつ辿ってみる。アジアの経済成長という触媒があり、各国企業の資金需要拡大という反応があります。ここまでは記事の説明どおりです。次に、日本側では国内融資・国内債券の投じたお金に対する収益の割合が低迷し、生保・地銀・信託銀行の運用資金が国内で行き場を失っている。

この供給側の圧力が、GIキャピタルやティケオーのような運用会社を経由して、アジアの高スプレッド資産に流れ込む。ここまでは今回のソースが示す事実で裏づけられる。

しかしその先、ファンド組成の増加が運用会社やその親会社の収益・株価にどう跳ね返るか、投資家の資金が実際にどれだけ流入し市場でどう評価されているかという段階は、今回の一次資料には出てこない。

日興アセットの親会社や三菱UFJ信託銀行の株価、資金フロー、バリュエーションへの反映は、この記事だけでは判断できない未確認区間として残しておく必要があります。ファンド組成のニュースを見て、そのまま運用会社の株を買う理由にしてしまうのは、伝達経路の途中を飛ばした思考です。

もう一つ注意したいのは、この資金移動が市場そのものの前提を変えてしまう可能性です。

日本マネーを含む世界の資金がアジアの融資ファンド市場に集中し続ければ、GIキャピタルのリー・ジェームズ社長が指摘する「米国では上乗せ金利が縮小したが、アジアはまだ相対的に大きい」という優位性そのものが、資金流入によって時間とともに縮んでいく。

人気が出るほど、その人気を生んだ条件が壊れていくというねじれは、成長市場の融資ファンドにつきまとう。市場拡大のスピードが与信の見極めより先に進めば、貸し倒れの増加という形でリスクは遅れて表面化する。

日銀が2024年10月の金融システムリポートで、プライベートファンドの運用実態の不透明さや信用の急拡大に伴う脆弱性、オープンエンド型ファンドの流動性リスクに警戒感を示したのは、この構造そのものへの注意喚起として読める。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

今後この分野を見ていくうえで確認しておきたい変数は三つある。一つはアジアの私募債スプレッドが米国のように縮み始めていないかどうか。二つ目はGIキャピタルのようなプレーヤーの貸し倒れ率が、2号ファンド以降もIRR22%という実績を裏切らない水準に抑えられるかどうか。

三つ目は、日本の生保・地銀・信託銀行が実際にアジア私募債への資金配分を増やし続けるかどうかです。

逆に言えば、日本の金融機関がGIキャピタルの言う「半分程度」の調達目標を達成できなかった場合、あるいはアジアのスプレッドが米国並みに急速に縮小してしまった場合、今回組み立てた供給側の見立てはそこで崩れる。この二つが、この記事の仮説にとっての反証条件になります。

戻って考えると、今回のニュースの主役は「アジアの成長」ではなく、国内で行き場を失った日本の運用マネーでした。

日興アセットとティケオーの提携も、GIキャピタルが資金の半分を日本から集めようとする姿勢も、根っこにあるのは同じ一つの事情、国内に運用先がないという構造だと捉え直すと、見え方が変わってくる。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

長期で投資を考えるなら、問うべきは「アジアの融資ファンドが流行っているか」でも「IRR22%という数字が魅力的かどうか」でもない。この事業がシンプルに腹落ちするかどうかです。

担保付き融資や不良債権の売買という地味な事業を、GIキャピタルやティケオーがどんな審査体制と経営判断で回しているのか。スプレッドが縮み始めても、与信を見極める力という競争優位が残るのかどうか。ここまで自分の頭で確認できて初めて、投資理由と呼べるものになります。

もしこの先この市場に関心を持つとしても、物差しにすべきは「みんなが買っているから」でも「投じたお金に対する収益の割合が高いから」でもない。国内の生保・地銀がアジア私募債への配分を実際に増やしているか、貸し倒れ率が抑えられているか、アジアのスプレッドが縮み始めていないか。

この三つを見続け、当初の投資理由——日本の運用難という供給側の圧力と、アジアの高スプレッドという需要側の条件——のどちらかが崩れた瞬間には、ブレずに持ち続けるのではなく、迷わず見直す。それが今回のニュースが教えてくれる、流行に振り回されない投資の物差しです。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「融資ファンドのアジア進出は、成長期待ではなく日本マネーの行き場探しから読み解け」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 日興アセットマネジメントが仏ティケオー・キャピタルと手を組み、2024年内にシンガポールで共同出資会社を設立する。
  • もう一つ注意したいのは、この資金移動が市場そのものの前提を変えてしまう可能性です。
  • もしこの先この市場に関心を持つとしても、物差しにすべきは「みんなが買っているから」でも「投じたお金に対する収益の割合が高いから」でもない。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

ニュースと投資判断の間に、一呼吸おく

良いニュースが出た会社が、良い投資先とは限りません。ニュースは入口。最後は、事業が自分の言葉で説明できるか、経営者に共感できるか、10年持つ姿を想像できるかを確かめます。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。