今日の国際ニュース

出典:The New York Times(https://www.nytimes.com/2025/12/24/business/private-equity-continuation-funds.html)

このニュースを読んだとき、私は見出しの大きさより、その裏で実際に動くお金が気になりました。

2022年5月、太平洋を見下ろすカリフォルニアのリゾートで、プライベートエクイティ大手クリアレイクの顧客向けイベントが開かれていた。シャンパンとエビ料理が振る舞われ、参加者を最も驚かせたのは景色ではなく数字でした。あるファンドの年平均リターンは50%。

ほとんどの投資家が夢見る水準の実績が、その場で誇らしげに語られていたという。

ただしこの高リターンには、あまり語られない仕掛けがあった。クリアレイクは自社が保有する企業を、自社が運用する別のファンド、いわゆるcontinuation vehicleに売却していた。売り手も買い手も同じ会社。自分から自分へ売って、その瞬間の評価額を新しい利益として計上する構造です。

ここに注目した

なぜこの手法が広がっているのか。プライベートエクイティは本来、借金で企業を買い、数年育てて第三者に売却し利益を確定するビジネスです。しかし数年続いた高金利で借金を使った買収が割に合わなくなり、買い手が消えた。

ニュースの見出しは、映画の予告編のようなものです。面白そうでも、結末までは分かりません。投資では、その先の数字を確かめます。

業界全体で売却できずに抱え込んでいる企業は3万1000社超と過去最多に膨らんでいる。continuation vehicleは、この売れない在庫を一時的にさばく迂回路として使われている。評価額を切り上げて帳簿上の利益を計上し、金利が下がるのを待つ時間稼ぎです。

この市場規模は2019年の約350億ドルから、2025年末には1000億ドル超まで膨らむ見通しだという。

この時間稼ぎが実際にどう終わるかを示す例が、クリアレイクが2018年に約4億2000万ドルで買収した自動車アクセサリー小売のWheel Prosです。

2021年には利益が約5000万ドルから2億ドル超まで拡大し、クリアレイクはこの企業をcontinuation vehicleに移し、購入額の4倍を超える23億ドルの評価をつけた。さらにこの評価を支えるために追加の借り入れを積み増した。

ところがコロナ特需が剥落すると売上は失速し、利払いができなくなり、2024年9月に破綻。ニューヨーク、コネチカット、ネバダの公的年金基金を含む投資家全員の資金がゼロになった。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「流動性」「構造を見る」「本丸を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

ここで意味を持つのは23億ドルという数字そのものではなく、その数字が何を証明できなかったかです。評価額が4倍になったことは、将来の手元に入るお金を保証しなかった。

しかも同じクリアレイクが運用する他のファンドでは、Icon IとIIが年49%と56%という好成績を報告する一方、Wheel Prosを抱えたIcon IIIは全損、Icon IVとVは2.7%と10.1%という地味な数字にとどまっている。

同じ運用者、同じ手法の中でここまで結果がばらつくという事実は、公表されるリターンそのものが運用者自身の評価判断に強く依存していることを示しています。

この構造で誰が得をし、誰がリスクを負うのかも見ておく必要があります。運用会社は資産を運用し続けることで手数料や成功報酬の計上機会を維持できる。一方、年金基金などの投資家は評価の不透明さと積み増された借金のリスクを引き受ける側に回る。

アラスカ・パーマネント・ファンドは運用資産の22%を占めていたプライベートエクイティ比率を17%まで下げ、テキサス州教員退職年金は「こうした取引は一切やってほしくない」と述べている。アブダビの政府系ファンドも、別の運用会社を相手取り自己取引による利益相反を訴えて提訴した。

業界側は独立した査定があるので利益相反はないと主張するが、その査定過程がどこまで透明なのかは投資家側の不満として残ったままです。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

ここから先は、この記事の中だけでは確認できない部分です。continuation vehicle市場が350億ドルから1000億ドル超に膨らんだことが、上場している大手運用会社の株価やバリュエーションにどう反映されているかは、この報道には出てこない。

査定の独立性がどこまで実質を伴っているか、CV同士をさらに乗り換えるCV二乗と呼ばれる新しい手法がどれほど広がっているかも、数字としては示されていない。ここは株が買われていると決めつけず、投資家自身が確認すべき宿題として残しておくべきところです。

もしこの先、continuation vehicleに移された企業群の破綻率や実際の手元に入るお金が、普通に第三者へ売却された企業群と大差ないとわかれば、ここで疑っている自己査定バイアスという見立ては崩れる。

逆に、独立査定が名ばかりでなく実際に運用会社の自己評価とほとんど差がないことが検証されれば、それもこの見立てを裏切る材料になります。今の時点ではどちらも確認されていない。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

冒頭のリゾートで交わされたシャンパンと50%という数字は、そこに立ち会った人々を高揚させたはずです。しかしその高揚を生んでいたのは、事業が生み出した現金ではなく、運用会社自身がつけた評価額でした。

ここで確認しておきたいのは、投資判断の物差しは有名な運用会社の実績でも、盛り上がった会場の空気でもないということです。シンプルに腹落ちするかどうか。Wheel Prosで言えば、コロナ特需に乗った自動車用品という事業が、特需が消えたあとも自分の足で稼げるビジネスかどうか。

そこが崩れていたのなら、23億ドルという評価は最初から根拠を欠いていたことになります。

長期で投資を続けるというのは、株価や評価額の上下に振り回されず持ち続けることではありません。持ち続けてよいのは、自分が理解した事業の本質と、顧客がその事業を選び続ける理由が変わっていないときだけです。

逆に、その理由自体が壊れているのに、帳簿の上の評価額だけが上がっているとしたら、それは持ち続ける理由にはならない。今回のケースで壊れていたのはWheel Prosの需要そのものであり、直っていなかったのは追加された借金の重さでした。

評価額の上昇でも、リターンの高さの評判でもなく、原資産が本当に現金を生み続けているかどうか。次にどこかで高いリターンや華やかな評価額の話を聞いたときこそ、思い出す価値のある物差しだと思う。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「シャンパンと50%リターンの祝宴が隠していたもの」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2022年5月、太平洋を見下ろすカリフォルニアのリゾートで、プライベートエクイティ大手クリアレイクの顧客向けイベントが開かれていた。
  • この構造で誰が得をし、誰がリスクを負うのかも見ておく必要があります。
  • 長期で投資を続けるというのは、株価や評価額の上下に振り回されず持ち続けることではありません。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

ニュースと投資判断の間に、一呼吸おく

良いニュースが出た会社が、良い投資先とは限りません。ニュースは入口。最後は、事業が自分の言葉で説明できるか、経営者に共感できるか、10年持つ姿を想像できるかを確かめます。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。