今日の国際ニュース

出典:The New York Times(DealBook Newsletter)(https://www.nytimes.com/2024/05/11/business/dealbook/all-the-rage-in-private-equity-mortgaging-the-fund.html)

会社のニュースでは、派手な金額より『その後、誰がどう動くのか』を見るようにしています。

2024年5月、ミルケン・インスティテュートのグローバル会議で、ウォール街の大物たちの間である地味な金融商品が話題になった。ネット・アセット・バリュー・ローン、通称NAVローンです。仕組みは単純です。

プライベートエクイティ(PE(未上場企業へ投資するファンド))ファンドは、買収した企業にすでに借金を背負わせている。そこにさらに、ファンドが保有する複数の投資先企業の資産価値全体を担保にして、追加で借金を重ねる。借金の上に借金を積む構造です。

なぜ今これが流行っているのか。理由は単純で、コロナ禍のブーム期に大量に買収したものの、その後のディール市場の停滞で「売却してキャッシュ化する」という本来の出口が詰まっているからです。

PE(未上場企業へ投資するファンド)ファンドの運用会社は、出資者であるLP(年金基金や大学基金など)に現金を返さないと、次のファンドを組成できない。Leonard Greenのパートナーは会議の壇上で「LPから前例のない圧力を受けている」と語った。

同社の広報担当は、自社はNAVローンを一切使っていないと否定しています。つまりNAVローンは、本来なら企業を売却して得るはずだったキャッシュを、追加借入によって前倒しで作り出す装置です。

ここに注目した

S&P Globalによれば、このNAVファシリティの市場規模は現在約1500億ドル。今後2年で3000億ドルへ倍増すると見込まれている。年率にすればおよそ4割の成長です。ただしこの数字だけでは、それがPE業界全体の運用資産や年間分配額に対してどれほどの比率なのかは分からない。

豪華な結婚式と、その後の暮らしは別です。企業の買収や上場も、発表の日より、その後に利益を育てられるかが大切です。

分母のデータが手元にないため、これが業界の片隅の話なのか、業界の構造そのものに関わる話なのかは、この段階では判定できない。数字は急拡大しているという規模感を示すだけで、それ以上の意味付けは早計です。

貸し手側は保守的に設計していると説明する。期間は2〜3年と短く、担保に対する貸出比率も低い。そして単一企業ではなく複数のポートフォリオ企業をまとめて担保にする分散担保方式が採られている。分散すればリスクは下がる、というのが常識的な説明です。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「流動性」「構造を見る」「本丸を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

しかしここで立ち止まりたいのは、その分散担保イコールリスク低減という前提そのものです。分散担保は、リスクの総量を減らしているのではなく、リスクの所在を見えにくくしているだけではないか。

法律事務所Ropes&Grayのパトリシア・リンチ氏は、分散担保が良い企業の手元に入るお金で悪い企業を支える構造になり得ると指摘しています。担保価値の算定はファンド運営者側の評価に依存し、しかも担保となる資産自体は非上場企業の株式であり、いざという時にすぐ売れる流動性はない。

もう一段深く見ると、この話はディール停滞という問題をNAVローンが解決したという単純な話ではありません。コロナ期の過熱した高値買収と高レバレッジという同じ体質が、一方でディール市場の停滞を生み、もう一方でNAVローンという追加レバレッジへの依存を生んでいる。

つまりNAVローンは停滞の解決策ではなく、停滞を生んだのと同じ体質の延長線上にある症状です。

さらに二次効果もある。分配が実現すればPE(未上場企業へ投資するファンド)は次のファンドを組成できるが、その裏でLPの審査基準が、実際に良い形で売却できたかから、とにかく現金が戻ってきたかにすり替わるリスクがあります。

市場全体でエグジット環境が改善しないままファンドの規模だけが積み上がれば、将来の資金回収は、より多くの資産のクロス担保をどう解きほぐすかという複雑なオペレーションに依存する状態が拡大していく。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

もっとも、最悪のシナリオ、つまりNAVローンのデフォルトが実際に起きる確率は今のところ低いとみられている。だがそれは検証済みで安全という意味ではなく、単にまだ大規模に試されていないというだけです。

ウィスコンシン州投資理事会のCIOは会議で、今キャッシュを少し受け取っても、ファンド全体がレバレッジされクロス担保化されて最終的に資金を失うなら、それは良い回収方法ではないと警告しています。

LP契約の多くはNAVローンが普及する前に書かれており、技術的には容認されても、明示的に合意されたものではありません。

なお、この話には投資家が自分で確認すべき空白があります。上場しているPE(未上場企業へ投資するファンド)運用会社の株や、NAVローンを提供する銀行・プライベートクレジット業者の株に、資金がどれだけ流入し、株価やバリュエーションがどう動いているかについて、今回の情報には一切データがない。

これはNAVローンブームで関連株が買われているという話ではなく、そもそも公開株式市場での反応が検証されていない、ということです。投資家が見るべき変数は主に三つある。

LPとの契約更新時にNAVローンの使途を制限する条項が入るかどうか、NAVローンを提供する貸し手側の与信がどれだけ特定の商品や業者に集中しているか、そして上場しているPE(未上場企業へ投資するファンド)運用会社の決算でNAVローン残高や使途が個別開示されるようになるかどうかです。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

この見立てが外れる条件も明確にしておきたい。ひとつは、NAVローンの実際のデフォルト率が複数の景気サイクルを通じて極めて低いままであることが実証された場合。

もうひとつは、LP側が契約更新を通じて十分な透明性と同意権を確保し、分配目的での利用が業界標準として構造的に制限されるようになった場合です。そのときはこの警戒は過剰だったと認めるべきでしょう。

さて、この話をどう自分の投資判断に持ち帰るか。冒頭のNAVローンは、キャッシュが戻ってきたという表面の事実だけを見れば安心材料に見える。

しかしそのキャッシュがどこから来たのかを一段掘り下げると、価値を生み出した証拠ではなく、レバレッジの所在を移動させただけの証拠かもしれない、という話でした。これは何もPE(未上場企業へ投資するファンド)ファンドに限った話ではありません。

企業でも同じで、配当や自社株買いの原資が本業の手元に入るお金なのか、それとも新たな借入なのかを見分けずに、株主還元が手厚いからを投資理由にするのは、この記事のNAVローンを分配が実現したから安心と評価するのと同じ間違いを犯すことになります。

人気があるから、みんなが使っているから、規模が急拡大しているから、を投資理由にはしない。NAVローンが1500億ドルから3000億ドルに増えるという数字自体は、それが良い商品か悪い商品かを何も教えてくれない。

大事なのは、その資金がどの事業のどんな本質的な強さから生まれているのか、それともただ別の負債に付け替えられただけなのかを、自分の頭でシンプルに腹落ちするまで確認することです。

そして一度その事業の本質を理解して投資したなら、短期の手元に入るお金報告や会議での盛り上がりに判断を振り回されるべきではありません。ただし、ブレないことと盲目を混同してはいけない。

腹落ちした前提、つまりこのキャッシュは本物の価値創造から来ているという前提そのものが崩れたときは、投資理由を素早く見直す必要があります。NAVローンというレバレッジの上に積まれたレバレッジは、その前提が崩れたかどうかを教えてくれる、地味だが重要な観察点のひとつになります。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「「ファンドそのものを担保に借りる」——PE業界のNAVローン急拡大は、リスクを減らしているの…」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2024年5月、ミルケン・インスティテュートのグローバル会議で、ウォール街の大物たちの間である地味な金融商品が話題になった。
  • さらに二次効果もある。
  • 人気があるから、みんなが使っているから、規模が急拡大しているから、を投資理由にはしない。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

ニュースと投資判断の間に、一呼吸おく

良いニュースが出た会社が、良い投資先とは限りません。ニュースは入口。最後は、事業が自分の言葉で説明できるか、経営者に共感できるか、10年持つ姿を想像できるかを確かめます。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。