今日の国際ニュース

出典:日経電子版(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC193M80Z11C23A1000000/)

不動産のニュースを見るとき、私は建物の立派さより、そこへ誰が来て、誰がお金を払うのかを考えます。

長野県松本市のアルピコホテルズは、2023年の観光シーズンに繁忙期の一時休業を検討していた。理由は単純で、人手が足りなかったからです。訪日客が急増し、フロントも清掃も追いつかない。普通なら、休業するか、無理に人を増やして人件費を膨らませるかのどちらかを選びそうな場面です。

だが同社が実際に選んだのは、採用強化と並行して、客室の価格を需要に応じて上下させるダイナミックプライシングの導入でした。休業は回避された。

日経電子版が2023年12月29日に報じた信越地方の観光統計を見ると、この一件は偶然の工夫ではなく、地域全体で起きていた急激な需要変化の延長線上にあることが分かる。

ここに注目した

まず起きたことを整理する。2023年4月28日、政府は水際対策を終了した。これを境に、新潟・長野両県の外国人延べ宿泊者数は急回復し、長野県は5月に前年同月比35.6倍、新潟県は6月に同2.9倍になった。この「◯倍」という数字は華々しく見えるが、意味を正確に読む必要があります。

家を買うとき、玄関のきれいさだけでは決めません。毎月いくら入り、修理にいくら出ていくかを見る。不動産や企業への投資も同じです。

前年の2022年はまだ入国制限下で外国人宿泊者数がほぼゼロに近い異常値だったため、倍率が跳ね上がるのは当然で、これは回復のスピードを示す数字にすぎません。実力を測るなら、コロナ前の2019年と比べるべきで、こちらは10月にようやく両県で2019年水準を上回った、という一点で確認できる。

急回復とはいえ、実需としての厚みが2019年超えを達成したのは半年以上かけてのことでした。

この需要急増は、新潟空港での台湾・上海・ソウル便再開や、長野市長による中国・タイでの観光PRといった行政の動きとも重なり、地方の観光インフラが一斉にコロナ前の姿へ戻ろうとしていたことが背景にある。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「国家戦略」「Love & Live」「経営者を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

ここで重要なのは、需要が増えた後に何が起きたかです。一般的な読み方は「インバウンドが戻ってホテル業は活況、しかし人手不足が課題」という単純な因果で止まる。しかしアルピコホテルズの事例が示すのは、その先にある分岐点です。

人手不足という供給制約に直面したとき、企業には大きく二つの選択肢があります。一つは、無理をしてでも人を確保し、賃金や採用コストを膨らませながら供給量を維持する道。もう一つは、供給量に上限を認めた上で、価格そのものを需要に合わせて動かす道です。アルピコホテルズは後者を選んです。

これは小さな出来事に見えるかもしれないが、日本企業の行動様式という観点からは意味が大きい。日本企業は長年、コストが上がっても値段を上げず、賃金や利益を削って吸収するという行動を続けてきたとされる。値上げは客離れを招くという恐怖が、値札より先に手足を縛ってきた。

今回の事例は、その慣性に対する現場レベルの、限定的だが具体的な反例です。しかもそれを可能にしたのは、価格に敏感になりにくい外需、つまり訪日客の存在だったという点が示唆的です。国内客相手なら値上げに及び腰になる企業も、支払意欲の高い訪日客が相手なら、価格決定力を発揮しやすい。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

同じ時期、長野県立科町の池の平ホテルは新本館を4月に開業し、湖畔ビューの温泉を打ち出した。新潟県佐渡市のHOTEL OOSADOも4月に高級路線へ舵を切り、繁忙期の利用客を2割増やした。いずれも値下げ競争ではなく、体験の付加価値を上げて単価そのものを引き上げようとする投資です。

人手不足という制約の下で、量ではなく質と価格で稼ぐ発想が、複数の現場で同時に芽生えていると読める。

ただし、ここから先を投資家として都合よく飛躍させてはいけない。今回のソースには、これらのホテルの客室単価や稼働率、営業利益率といった定量データは一切含まれていない。ダイナミックプライシングの導入が実際に利益率改善につながったのかどうかは、まだ確認されていない仮説にすぎません。

同様に、アルピコホテルズや池の平ホテル、HOTEL OOSADOの株価や資金フローに関する情報も存在しない。これらの企業が上場しているかどうかも含め、投資判断の材料にするなら決算資料やIR情報を別途確認する必要があります。

政府や地域の需要拡大がそのまま企業の利益成長になるとは限らず、利益成長がそのまま株価上昇になるとも限らず、株価上昇がそのまま投資価値になるとも限らない。この記事が示しているのは、あくまで価格転嫁という選択が現場で起き始めたという一次的な事実であり、その先の利益化・株価化はまだ観察対象です。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

反証条件も明確にしておきたい。もし今後、円安が反転して訪日客の価格許容度が下がれば、ダイナミックプライシングは稼働率の低下という形で跳ね返り、価格転嫁の成功例ではなく需要蒸発の失敗例に転じる。

また人手不足がさらに深刻化し、採用コストの増加が客室単価上昇分を上回れば、利益率改善という因果は成立しない。佐渡金山の世界遺産登録も2023年12月時点では確定しておらず、誘客材料として実現するかどうかは今後の情報を待つ必要があります。

冒頭に戻ろう。アルピコホテルズが休業を回避できたのは、人手不足を安売りや我慢で乗り切ろうとせず、価格という手段を使ったからでした。長期投資で見るべきなのは、このホテルの株価が上がるかどうかでも、インバウンドという流行がいつまで続くかでもない。

見るべきは、需要が増えたときに、その企業が値段を上げる胆力を持っているかどうか、そしてその値上げに見合うだけの体験や磁力を客に提供できているかどうかです。

池の平ホテルの湖畔ビューも、HOTEL OOSADOの高級路線も、値上げそのものではなく、値上げを正当化するだけの中身を作った投資として見る必要があります。

有名だから、話題だから、訪日客が増えているから、という理由で観光関連株に飛びつくのは、投資理由にならない。問うべきは、その事業が値上げできるだけの理由を顧客に説明できているか、経営者がその価格決定力をどう使い続けるつもりなのか、という一点です。

そしてもし今後、円安が反転し、訪日客が去り、値上げが単なる稼働率低下に変わったなら、それは投資理由そのものが壊れた瞬間であり、株価がどうであれ、その時点で保有の前提を見直すべきだというのが、この記事から引き出せる結論です。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「「休業寸前のホテルが、値上げで人手不足を乗り切った」——インバウンド最前線に見る日本企業の変…」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 長野県松本市のアルピコホテルズは、2023年の観光シーズンに繁忙期の一時休業を検討していた。
  • これは小さな出来事に見えるかもしれないが、日本企業の行動様式という観点からは意味が大きい。
  • 有名だから、話題だから、訪日客が増えているから、という理由で観光関連株に飛びつくのは、投資理由にならない。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

不動産は、建物よりお金の流れを見る

同じ建物でも、借りる人がいなければ収入は生まれません。入ってくる賃料、出ていく修繕費、借金の金利。この三つを並べると、見た目だけでは分からない強さが見えてきます。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。