今日の国際ニュース

出典:日経電子版(NQNスペシャル)(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL00016_U3A001C2000000/)

金利や税金のニュースは、むずかしい言葉が並びます。でも最後に動くのは、私たちの財布と企業のお金です。

2023年9月、日本国内の金価格が最高値を更新した。円安のニュースと一緒に語られることが多いが、金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のチーフ・マーケット・ストラテジスト、ジョン・リード氏への日経のインタビューを読むと、話はそう単純ではありません。

同氏はまず「向かい風」として、9月のFOMCでFRBが政策金利を据え置いたものの依然タカ派的で、高金利・ドル高は金にとって逆風だと述べている。米金利が上がれば金は売られ、下がれば買われる。これが多くの人が金相場を語るときに使う物差しです。

金利トレードと呼ばれるこの見方は、株式や為替の解説でもおなじみで、違和感なく受け入れられている。

ここに注目した

ところがリード氏は同じ口で、もう一つの「追い風」を語っている。中央銀行の金買いです。リーマン・ショック以降、中銀は金の売り手から買い手に転じ、2010〜21年は年平均473トンだった購入量が、2022年には1136トンへと急増した。単純計算で約2.4倍です。

家計簿で大切なのは『節約する』という宣言ではなく、月末にお金が残ったかどうかです。国や企業の数字も、宣言と結果を分けて見ます。

しかもこの増加は均等に進んだのではなく、2022年下半期だけで862トン、年間の実に76パーセントがこの半年間に集中しています。金利トレードという物差しだけで金相場を見ていると、この数字の意味を取り違える。

中銀の金買いは「金利が下がったから買った」のではなく、地政学リスクの高まりを背景にした外貨準備の配分方針そのものの転換だからです。

この違いは小さくない。金利トレードの主役は、価格の上下に反応して売り買いを翻す投機的な短期資金です。金利が上がれば売り、下がれば買う。感応度が高いからこそ、金利予想は有効な物差しになります。しかし中銀の買いはそうではありません。

リード氏は「中銀関係者と話すと、今後10年間はインフレをいかに抑えるかの挑戦だという」と述べ、現時点の外貨準備の金保有動向を見る限り、数年から数十年単位で中銀は金を買い続けるとみている。

これは金利サイクルという短期変数ではなく、地政学リスクの構造的な高止まりという上位要因に紐づいた政策判断であり、FRBが利上げしようが利下げしようが、独立に進行しうる。需要の主役が投機マネーから政策的な準備分散マネーへ交代した局面では、金利という物差し自体がそもそも機能しなくなる。

なお、ここで語られる数字や見立てはすべてリード氏個人へのインタビューでの発言であり、WGCとしての公式な予測ではない点は押さえておきたい。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「国家戦略」「流動性」「構造を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

この構造転換は日本にも及んでいる。リード氏によれば、日本人は1970〜90年代には金の買い手だったが、2000年以降は売り手に回っていた。それが円安を背景に、年金や保険会社といった機関投資家の金需要が高まっているという。

仮にこれが今後も続くなら、長らく金を売ってきた主体が買い手に転じることになり、供給が急に増えるわけではない金という資産に新たな買い圧力が加わることになります。

もっともこの発言はリード氏個人の見立てであり、日本の具体的な機関投資家の金保有比率がどれだけ動いたかを示す統計は今回のソースには含まれていない。これは「そうなるだろう」という仮説であり、投資家自身が今後追うべき変数です。

中国の動きも一枚岩ではありません。2023年1〜3月期は宝飾向けの金需要が強かったが、4〜6月期は景気拡大の失速で需要が弱まった。その一方で、不動産や株式市場から資金を引き揚げてポートフォリオを多様化させる動きが、現物の金需要に流れ込んでいるという。

景気が良いから金が買われるのでも、悪いから買われないのでもない。「他に置き場所がない不安なマネー」が金に向かうという、金利トレードとは別の経路がここにも表れている。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

さらに興味深いのは、金鉱山業界そのものの会社がお金をどこへ振り分けるかが変わりつつあるという指摘です。リード氏が鉱山関連のカンファレンスで会った、これまで金鉱山に注力してきた企業トップたちは、口をそろえて銅の比率を増やしたいと語っていたという。

再生可能エネルギー関連で最も恩恵を受けるコモディティーは銅であり、中国需要の弱さで足元の銅価格は下がっているものの、中期的には投資家にとって好機とみられているというのがリード氏の見立てです。

ここで注意したいのは、中銀の金買いが増えても、それが自動的に金鉱山企業の増収・増益につながるわけではないという点です。金鉱山企業自身が資本を金から銅へ振り向け始めているのなら、金価格上昇のメリットをそのまま享受する供給側の企業構成自体が変わっていく可能性があります。

金価格が上がる理由と、金鉱株が上がる理由は別の話であり、両者を安易に結び付けるのは早計です。

実際、今回のインタビューには、金ETFへの資金流入額や金鉱株の株価推移、バリュエーションの変化を示す数字は一切出てこない。中銀が買い増しているという事実と、金価格が上がっているという事実は語られていても、そこに市場参加者の資金がどれだけ、どんな速度で流入しているかは分からない。

投資家がこの記事から次にすべきことは、値上がりに乗ることではなく、WGCが四半期ごとに公表する中銀の金購入統計が2023年後半以降も同じペースで続いているか、日本の年金・保険会社の資産配分に金がどの程度組み込まれているか、金鉱山企業の設備投資が金と銅のどちらに向かっているかを、自分の目で確認することです。

これらが今回のソースにない以上、「もう金は買いだ」という結論をここから導くことはできない。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

冒頭に戻ろう。日本の金価格が最高値を更新したというニュースは、多くの場合「円安だから」「金利が下がりそうだから」という物差しで語られる。だが今回のインタビューが教えてくれるのは、そのどちらでもない第三の物差しがあるということです。

金利予想という短期の物差しではなく、中央銀行という金利に反応しない買い手が、外貨準備の配分比率をどれだけの速さで変えているか。

投資を判断するときに大事なのは、シンプルに腹落ちするかどうか、そしてその事業や資産を持つ理由が今も生きているかどうかであって、値上がりしているから、みんなが買っているからではありません。金相場についても同じことが言える。

金利が下がりそうだから金を買う、というのは値動きへの反応であって、投資理由ではありません。

もし金を持つ理由が「中銀という構造的な買い手が、地政学リスクの高止まりを背景に配分比率を変え続けている」ことにあるのなら、確認すべきは金利の方向ではなく、その中銀買いのトレンドが続いているかどうかです。

もし2023年以降にWGCの統計でこの購入量が明確に減速・反転すれば、この投資理由そのものが崩れる。逆に金利が多少動いても、中銀買いというトレンドが生きている限り、当初の理由は壊れていない。同じことは、金鉱山企業についても言える。

かつて金一本足だった経営陣が銅の比率を増やそうとしているなら、その企業を「金への投資」として保有していた理由は、経営の重心が変わった時点で見直す必要があります。値段が下がったからではなく、事業そのものが変わったから見直す。

今回の金相場の話は、その物差しを一見単純な資産にも当てはめられることを示しています。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「金相場は「金利」では測れない――中央銀行という新しい買い手が変えた物差し」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2023年9月、日本国内の金価格が最高値を更新した。
  • 中国の動きも一枚岩ではありません。
  • もし金を持つ理由が「中銀という構造的な買い手が、地政学リスクの高止まりを背景に配分比率を変え続けている」ことにあるのなら、確認すべきは金利の方向ではなく、そ…
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

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金利やGDPは遠い話に見えます。でも住宅ローン、商品の値段、会社の借入費用へつながっています。難しい数字ほど『誰の支払いが増えるの?』と聞くと、少し身近になります。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。