今日の国際ニュース

出典:The New York Times(https://www.nytimes.com/2023/08/25/world/middleeast/iran-brics.html)

地政学のニュースは、不安も数字も大きくなりがちです。けれど、怖いニュースと良い投資先は同じではありません。

2023年8月、南アフリカで開かれたBRICS首脳会議で、イランのライシ大統領はわざわざ現地まで足を運び、自国が新規加盟国に招かれたことを「歴史的な成果」だと胸を張って発表した。

アルゼンチン、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、UAEとともに招かれた6カ国の一つとしてであり、イラン政府は国内外に向けて「我々は孤立していない」というメッセージを打ち出した。

このニュースを読むとき、まず立ち止まりたいのは、「加盟が発表された」という事実と「お金が実際にどう動いたか」という事実を、うっかり同じ棚に並べてしまわないかということです。記事に登場する専門家たち自身が、実はこの二つをかなり明確に分けて話しています。

ワシントン近東政策研究所のヘンリー・ロム氏は、BRICS加盟がイランの経済問題を解決するとは考えていないと述べ、加盟の主な効用は「有力な友人がいることを示す」という政治的レバレッジの獲得にあると説明する。

テヘランの政治分析者ササン・カリミ氏も、この外交的成功は国内の経済状況そのものを改善しないと明言しています。

ここに注目した

つまり記事の本当の主役はBRICSという枠組みではなく、その裏側にある三つの資金の流れです。第一に、中国への値引き原油の輸出。2021年にイランと中国は25年間で4000億ドルの投資と引き換えに、安定した値引き原油の供給を受ける経済・安全保障協定を結んです。

大きな予算は、買い物かごの大きさにすぎません。実際に何を買い、どの会社へ注文が届くのか。そこまで進んで、初めて企業の売上になります。

4000億ドルを25年で単純に割ると年間およそ160億ドルという規模感になるが、これはあくまで「合意された上限」であり、実際に年ごとにどれだけ執行されたかを示す数字ではありません。

記事にも年次実行額の開示はなく、私たちが見ているのは「約束の大きさ」であって「実現した投資」ではないという区別を、まず自分の中に置いておく必要があります。

その協定の実体を映すのが、2023年6月時点でイランが日量約160万バレルの原油を輸出していたという数字です。これは核合意が有効だった2018年以来の水準への回復であり、買い手の中心は中国です。

ただしこの160万バレルという数字は「量の回復」であって、それが実際に何ドルの収入になっているかは記事には書かれていない。値引き原油である以上、量が戻ったからといって収入も同じ比率で戻っているとは限らない。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「国家戦略」「流動性」「構造を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

第二の資金の流れは石油以外の貿易です。拡大前の5カ国とのイランの非石油貿易は2022〜23年度に14%増え、384.3億ドルになったとイランの税関データをもとにした現地報道が伝えている。

この14%という伸び率がイラン経済全体でどれほどの重みを持つのか、GDPや財政収支への影響度までは記事の情報からは計算できない。伸びていることは事実だが、それが「BRICS加盟のおかげ」なのか「加盟以前から進んでいた東方シフトの延長」なのかも、この数字だけでは切り分けられない。

第三が、韓国で凍結されていた60億ドルの資金が、米国との囚人交換を通じて実際にイランの手元に戻ってきたという事実です。これは金額として具体的で、実際に動いた資金だという点で、先の二つよりも確定した移動に近い。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

ここまでを並べると見えてくるのは、BRICS加盟という出来事は、これら三つの資金の流れの結果、あるいは政治的な承認であって、それ自体が新たに資金を生み出す装置ではないということです。表面的には「制裁で孤立、だからBRICSで対抗」という一段の因果に見えるが、実際は二段構造になっている。

2018年にトランプ政権が核合意から離脱し制裁を再開したことで欧州企業がイランから撤退し、それがイランを中国・ロシアへ押し出す起点になった。

そして2021年の中国との協定と、そこから生まれた原油輸出・貿易関係こそが、いまのイラン経済を実際に支えている土台であり、BRICS加盟はその土台の上に立てられた旗にすぎません。

ここで投資家として注意すべきなのは、この記事には株価やファンドの資金フロー、対イラン関連銘柄のバリュエーションに関する情報が一切含まれていないという点です。

地政学ニュースが出ると「制裁包囲網の綻び」「新興国連合の台頭」といった物語に沿って資本市場が反応するかのように語られがちだが、実際に対中原油商社やエネルギー関連企業の株価、資金フローがどう動いたかは、この記事だけでは検証できない。

投資判断に使うなら、加盟のニュースそのものではなく、対中原油の出荷量とその実勢価格、4000億ドル協定の年次執行額が開示されるかどうか、非石油貿易の伸びが賃金や雇用といった国内の分配にまで及んでいるかどうかを、別途確認しに行く必要があります。

それらを確認せずに「BRICS加盟だから関連セクターは追い風」と結論づけるのは、政治的な旗の色と実際の資金の量を混同していることになります。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

もう一つ気になるのは二次的な効果です。原油も投資も貿易も中国への依存度が上がるほど、価格を決める力はイラン側からむしろ中国側に移っていく可能性があります。買い手が事実上一社に集中するほど、値引きの幅は広がりやすい。

加えて「外交的成功」という物語が繰り返されるほど、国内の物価高や分配構造といった痛みを伴う改革は政治的に先送りされやすくなる。記事の最後で、ある女性が「この件で最終的に損をするのはイラン国民だ」と語っているのは、この構造をそのまま言い当てている。

この見方が間違っている可能性も残しておきたい。BRICS加盟後に、中国以外からの新規資本や新たな輸出先が実際に増え、対中依存が薄まる証拠が出てくれば、「政治的な承認に過ぎない」という位置づけは弱くなる。

あるいはイラン国内の実質賃金や雇用、物価が加盟後に有意に改善するなら、政治的レバレッジが実際に生活水準の改善へ転換した証拠になり、この記事の見立ては修正が必要になります。

ライシ大統領が南アフリカで「歴史的な成果」と語った瞬間に戻ろう。あの拍手と自賛の光景そのものは、投資判断の材料としては実はほとんど何も語っていない。

有名になったから、話題になっているから、みんなが「潮目が変わった」と言っているから、という理由で判断を組み立てるなら、それはこの記事の登場人物たちがやっていることと同じ罠にはまることになります。

大事なのはBRICSという看板の人気ではなく、その看板の裏で実際に動いている事業の中身、つまり原油の出荷量とその実勢価格、協定の執行状況、貿易の伸びが誰の暮らしに届いているか、という腹落ちできる実体です。

長期で何かを持ち続けるかどうかを決めるのは、旗が増えたという評判ではなく、その旗の下で実際に現金がどう流れているかという一次情報であり、もしその実体――たとえば中国への出荷量が細る、協定の執行が止まる、非石油貿易の伸びが失速する――が変わったなら、そのときこそ最初の判断そのものを見直すべきタイミングです。

BRICSに加盟したという見出しではなく、160万バレル、384億ドル、60億ドルという、実際に動いた数字を追い続けること。それが、このニュースから引き出せる長期投資の物差しです。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「「BRICS加盟」という祝砲は投資家に何も教えない――イラン報道が示す、政治スペクタクルとマ…」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2023年8月、南アフリカで開かれたBRICS首脳会議で、イランのライシ大統領はわざわざ現地まで足を運び、自国が新規加盟国に招かれたことを「歴史的な成果」だ…
  • 第三が、韓国で凍結されていた60億ドルの資金が、米国との囚人交換を通じて実際にイランの手元に戻ってきたという事実です。
  • ライシ大統領が南アフリカで「歴史的な成果」と語った瞬間に戻ろう。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

ニュースと投資判断の間に、一呼吸おく

良いニュースが出た会社が、良い投資先とは限りません。ニュースは入口。最後は、事業が自分の言葉で説明できるか、経営者に共感できるか、10年持つ姿を想像できるかを確かめます。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。