今日の国際ニュース

出典:The New York Times(Opinion, Paul Krugman)(https://www.nytimes.com/2023/08/24/opinion/trump-tariff-geopolitical-impact.html)

金利や税金のニュースは、むずかしい言葉が並びます。でも最後に動くのは、私たちの財布と企業のお金です。

2023年8月、大統領選への再挑戦を模索していたトランプ氏が、Fox Businessの番組であるアイデアを口にした。すべての輸入品に一律10%の関税をかける、というものです。

本人はこれを「首の周りの輪(ring around the collar)」と呼び、まるでアメリカ経済を守る襟のように語った。

この発言を題材にしたのが、ノーベル経済学賞受賞者でニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ポール・クルーグマン氏のオピニオンです。彼の論は、多くの人が最初に思い浮かべる「関税は消費者への増税だ」という論点をあえて脇に置くところから始まる。

ここに注目した

まず表の話を押さえておきたい。関税は事実上の税金であり、その負担は輸入品を買う米国の家計にしわ寄せされる。しかも所得の低い世帯ほど比重が重くなりやすい。消費者は品質の劣る割高な国産品を選ばされることになります。これは保護主義が常に引き起こす副作用だと著者は書いている。

家計簿で大切なのは『節約する』という宣言ではなく、月末にお金が残ったかどうかです。国や企業の数字も、宣言と結果を分けて見ます。

ここまでは「関税=物価高」という、ニュースを見た誰もが納得する理解でしょう。

ところが本論はここからです。標準的な経済モデルによれば、関税がもたらす非効率のコストは、関税率がよほど高くならない限り実はそれほど大きくない。

19世紀後半のアメリカは平均30〜40%という、今回提案された10%よりはるかに高い関税をかけていたが、そのときの効率損失の推計値でさえGDPの1%に満たなかったという。

この数字をどう読むかが分かれ道になります。「関税なんて大した実害はないのか」と受け取るなら、論旨を取り違えている。著者がこの数字を出したのは関税を軽視するためではなく、逆に「効率損失という物差しだけで関税の善し悪しを測ること自体が、本当の危険から目をそらしてしまう」と言うためです。

私がこの記事に惹かれたのは、まさにこの物差しの入れ替えです。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「国家戦略」「構造を見る」「本丸を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

著者が本当に問題視しているのは、税負担の大きさではなく、秩序という目に見えない資本の毀損です。現在の世界貿易は、各国政府が思いつきで貿易制限をかけられないように縛るルールの上に成り立っている。

しかもこのルール自体、フランクリン・ルーズベルト政権期の互恵通商政策を土台に、アメリカ自身が主導して作り上げたものです。もし米国が一方的に全輸入品へ関税をかければ、それは自らが作った秩序から自分だけ抜け出す行為になります。

ここで見落とされがちなのが、その後に起きることの中身です。著者は「報復」よりも「模倣」の方が本筋だと明言しています。

他国が米国に仕返しの関税をかけるという単純な話ではなく、世界中の政府が自国の業界団体を守るための関税を思い思いに導入し始める、利益団体向け関税の連鎖という現象を想定しています。

これは貿易摩擦という経済問題である以上に、本来協調すべき同盟国同士に不信と敵対心を植え付ける地政学的な劣化だという指摘です。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

対比として、当時のバイデン政権のバイ・アメリカン条項付き産業政策にも触れられている。

同じ「自国優先」に見える政策でも、安全保障上重要な技術を育てる、気候政策を支えるといった目的が明確な政策と、貿易赤字を減らすという単純化された動機しか見当たらない一律関税とでは、秩序への負荷のかかり方が違う、というのが著者の見立てです。

さて、ここから先を投資家としてどう扱うかが私の関心事になります。多くの論者は「関税が上がる→物価が上がる→消費が落ちる」という一直線の因果でこの手のニュースを消費する。

しかし今回の題材が教えているのは、政策の量が増えたからといって、それがそのまま企業の受注や利益、ましてや株価の上昇に直結するわけではないということです。関税という政策変数と、企業の売上・マージン・手元に入るお金、そして株式市場の評価の間には、いくつもの中間層が存在する。

この記事に即して言えば、投資家が本当に監視すべき先行指標は、関税率そのものの高さではなく、他国がそれをどれだけ模倣し始めるかです。米国が10%の関税を実施しても、主要な貿易相手国が追随せず、既存の多角的な貿易ルールが実質的に維持されるなら、秩序毀損という私的リスクは顕在化しない。

逆に、複数の国が同時多発的に自国業界保護のための関税を掲げ始めたなら、それはサプライチェーンの地域内再編、調達コストの上昇、多国籍企業のマージン圧縮という形で、時間差を伴いながら企業収益に波及してくる可能性があります。

ただしこれは記事の論旨から導かれる推論であり、実証されたものではありません。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

正直に言えば、この記事の時点で株価や資本フローがどう動いたかを示す一次データは存在しない。ここを埋めるように断定するのは私のスタイルではありません。

資本市場が関税リスクをどう織り込むか、多国籍企業のサプライチェーン再編コストが実際にどれだけマージンを削るかは、投資家自身が今後の決算やIRで確認すべき宿題として残しておく。

さいごに、この「首の周りの輪」という比喩に戻りたい。トランプ氏はこれを経済を守る襟だと言ったが、著者の論旨に沿えば、実際に締め付けられるのは消費者の財布である以上に、各国が長年かけて築いてきた「勝手に関税をかけ合わない」という約束事そのものです。

私が投資判断において大事にしているのは、人気があるから、話題になっているから、政策のニュースが派手だから、という理由で保有・売買を決めないことです。ある政策が本当に投資対象企業の事業の本質を変えるのか、競争優位を掘り崩すのか、経営陣の打ち手を制約するのかを、まず自分の言葉で腹落ちさせる。

関税10%という数字の大小に一喜一憂するのではなく、その関税をきっかけに他国が模倣を始めたかどうか、貿易ルールという秩序資本が実際に劣化し始めたかどうかを継続的に確認する。

そして、もし自分が最初に投資理由として置いていた前提、たとえばグローバルに最適化されたサプライチェーンを持つ企業の優位性が、秩序の劣化によって本当に崩れ始めたと確認できたときにだけ、保有の見直しに動く。

短期の株価やニュースの見出しの派手さではなく、投資理由そのものが壊れたかどうかを物差しにする。この記事が教えてくれるのは、まさにその物差しの持ち方です。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「「関税10%」の話ではありません。」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2023年8月、大統領選への再挑戦を模索していたトランプ氏が、Fox Businessの番組であるアイデアを口にした。
  • ここで見落とされがちなのが、その後に起きることの中身です。
  • 関税10%という数字の大小に一喜一憂するのではなく、その関税をきっかけに他国が模倣を始めたかどうか、貿易ルールという秩序資本が実際に劣化し始めたかどうかを継…
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

大きな経済数字は、自分の財布へ戻して考える

金利やGDPは遠い話に見えます。でも住宅ローン、商品の値段、会社の借入費用へつながっています。難しい数字ほど『誰の支払いが増えるの?』と聞くと、少し身近になります。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。