今日の国際ニュース

出典:The New York Times(Paul Krugman, Opinion Columnist)(https://www.nytimes.com/2023/07/25/opinion/japan-china-economy.html)

このニュースを読んだとき、私は見出しの大きさより、その裏で実際に動くお金が気になりました。

ポール・クルーグマンが2023年7月25日に書いたオピニオンコラムは、1990年代初頭に「日本に世界が支配される」と本気で語られていた空気を振り返るところから始まる。あの熱狂のタイミングは、皮肉にも日本の相対的な経済力低下がまさに始まった瞬間と重なっていた、と彼は言う。

そこから彼は「では中国は次の日本になるのか」という問いへと話を進めていく。

私たちがよく耳にする日本停滞のストーリーはこうです。1980年代後半に株式と不動産の巨大バブルが発生し、それが崩壊して不良債権と企業債務の重荷を残し、失われた数十年を生んです。実際、日経平均は今なおバブル期の1989年につけた高値を大きく下回ったままです。

この物語には一定の真実があるとクルーグマンは認めつつ、それだけでは説明できない最大の要因があると指摘する。人口動態です。1990年代半ば以降、低出生率と移民受け入れへの消極姿勢によって、日本の生産年齢人口は急速に減り続けてきた。

ここに注目した

ここからの数字の見方が面白い。人口動態の影響を調整して見ると、日本は該当人口一人当たりの実質所得で45%の伸びを達成しています。米国はそれを上回っているものの、「日本はゼロ成長で沈んでいる国」という私たちの直感とはまるで違う姿がそこにはある。

ニュースの見出しは、映画の予告編のようなものです。面白そうでも、結末までは分かりません。投資では、その先の数字を確かめます。

しかも壮年男性の就業率は米国より一貫して高く、1990年代に悪化した若年失業率もその後反転して改善した。この雇用の安定は大規模な財政赤字によって部分的に支えられ、政府債務は膨張したが、何十年も予言され続けた債務危機は結局起きていない。

クルーグマンはここから、日本を「反面教師」ではなく「厳しい人口動態のもとでも繁栄と社会の安定を両立させたロールモデル」だと位置づける。

この読み方自体は誠実で説得力があります。ただ、投資判断の物差しとしてこの記事を読むと、一つの空白に気づく。人口動態というレンズは、経済がどこまで大きくなれるかという「天井」は説明できても、生産性が上がっているのに実質賃金がそれに連動して伸びなかったという「分配の切断」を説明できない。

就業率は高いのに賃金の伸びが鈍いなら、生産性向上によって生まれた果実は、誰かがどこかで受け取っているはずです。その受け取り手が誰かという問いに、この記事は踏み込んでいない。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「国家戦略」「経営者を見る」「流動性」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

ここで物差しを一段置き換えてみる。本当の分岐点は人口カーブそのものではなく、企業が生産性向上の果実をどれだけ価格転嫁と賃上げに回さず、現預金として貯め込んでしまうか、そしてその需要不足を政府が財政赤字でどこまで穴埋めし続けられるか、という分配の構造にあるのではないか。

人口減少は、需要不足にも財政赤字の拡大にも同時に効いてくる。しかしその深刻さの度合いを最終的に決めるのは、企業が価格転嫁と賃上げを避けて貯蓄超過に向かうかどうかという、もう一つ別の意思決定変数です。

人口動態は必要条件にすぎず、分配をめぐる企業の不作為こそが、停滞の深さを左右する十分条件になり得る。これはこの記事単体では検証されていない仮説であることは断っておきたい。

この視点で中国を見ると、記事が示す事実だけでも興味深い符合があります。中国は消費需要が弱く不動産依存の不均衡な経済構造を持ち、生産年齢人口も減少局面に入っている点で1990年の日本と似ている。

1990年当時の日本と違い、中国はまだ技術フロンティアから距離があるため理論上は生産性のキャッチアップ余地が大きい一方、成長が途中で止まる「中所得国の罠」への懸念も強い。さらに中国の若年失業率は、すでに日本がかつて経験した水準を上回っている。

クルーグマン自身、自分は中国の専門家ではないと明確に留保したうえで、権威主義体制のもとで日本型の社会的結束や「静かな吸収力」を再現できるかは分からないと述べている。この予測部分は本人の推測であり、事実として扱うべきではありません。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

投資家として中国を観察するなら、見るべき変数は人口統計そのものよりも、国有企業を含む企業部門が現預金をどれだけ積み増しているか、実質賃金と生産性の伸びの差がどう推移しているか、そして政府がどこまで財政赤字で需要を支え続ける意思と余力を持つか、という三点になります。

ただし断っておかねばならないのは、この記事には資金の流れや株価の反応、市場のバリュエーションに関する記述が一切存在しないということです。だから「資本が中国関連資産に向かっている」とか「市場がこのリスクを織り込み始めている」といった動きを、あたかも既に起きた事実のように書くことはできない。

それは投資家自身が別途確認すべき、未解決の監視項目にとどまる。

この記事自体が、その注意を裏付ける具体例を一つ含んでいる。人口調整後の実質所得が45%伸び、雇用も安定していたにもかかわらず、日経平均は依然として1989年の高値を下回ったままでした。経済の実体が改善しても、それが自動的に株価やバリュエーションの回復につながるわけではありません。

政府支出の拡大は自動的に企業収益の拡大を意味しないし、企業収益の拡大も自動的に株価上昇を意味しない。この記事の中の日本の姿そのものが、その三段階のギャップを静かに証明しています。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

この分配ベースの見方が間違っている可能性も、はっきりさせておく必要があります。もし中国が日本よりずっと速く価格転嫁と賃上げを実現し、実質賃金が生産性の伸びにきちんと連動するなら、貯蓄超過という説明は中国には当てはまらないことになります。

逆に中国企業の貯蓄率がこの先も趨勢的に上昇せず、投資が貯蓄を上回る状態が続くなら、それもまたこの仮説を裏切る材料になります。どちらも今の時点では確認できておらず、今後の企業決算や統計で検証していくべき論点です。

冒頭に戻ろう。1989年のピークを超えられない日経平均と、その裏側で静かに積み上がっていた45%の実質所得の伸び。同じ日本経済の話をしているのに、見る指標を変えるだけでまったく違う顔が現れる。これが今回のニュースが投資家に突きつけている本当の教訓だと思う。

人口が増えるか減るか、株価指数が高いか安いか、中国が「次の日本」になるかどうかという世間の議論そのものは、実は投資判断の軸にはならない。見るべきは、生産性の果実を誰が受け取っているのかという、もっと地味で確認しづらい分配のメカニズムです。

これは個別企業を見るときに「経営者がおもろいか」「事業の本質にシンプルに腹落ちできるか」を確かめる作業と、実は同じ根を持っている。有名だから、みんなが話題にしているから、株価指数が動いたから、という理由でポジションを取ってはいけないのは、国や経済圏を見るときも変わらない。

もし中国の消費関連や賃金上昇を前提にした投資アイデアを持つなら、日々の株価の上下ではなく、企業が実際に価格転嫁と賃上げに動いているか、政府が需要下支えの財政余力と意思を持ち続けているか、という当初の投資理由そのものが壊れていないかを確かめ続けることが長期投資の作法になります。

人口ピラミッドのグラフを眺めるより先に、決算資料の現預金の積み上がりと賃上げの発表に目を凝らす。今回の記事が教えてくれるのは、そういう地味な物差しの持ち方です。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「日本の「停滞」神話が教える、人口動態より恐ろしい経済の物差し」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • ポール・クルーグマンが2023年7月25日に書いたオピニオンコラムは、1990年代初頭に「日本に世界が支配される」と本気で語られていた空気を振り返るところか…
  • この視点で中国を見ると、記事が示す事実だけでも興味深い符合があります。
  • 冒頭に戻ろう。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

ニュースと投資判断の間に、一呼吸おく

良いニュースが出た会社が、良い投資先とは限りません。ニュースは入口。最後は、事業が自分の言葉で説明できるか、経営者に共感できるか、10年持つ姿を想像できるかを確かめます。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。