今日の国際ニュース

出典:日経電子版(ビジネスTODAY、杉山恵子・柴田唯矢、会員限定記事)(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC245IE0U5A221C2000000/)

会社のニュースでは、派手な金額より『その後、誰がどう動くのか』を見るようにしています。

2025年、東証グロース市場への新規上場は41社。前年の64社から4割近く減り、12年ぶりの低水準となりました。ところが上場時の時価総額(会社の株全体についた値段)の中央値は58億円から102億円へと7割近く跳ね上がり、過去10年で初めて100億円を超えた。件数は減ったのに規模は増えた。

この一枚のグラフを見て、多くの人は「量から質への転換」「東証改革がついに実を結んだ」と読むでしょう。だが私の立場からすると、この読み方は一歩早すぎる。

件数減と規模増が同時に起きたとき、そこには少なくとも二つの、まったく別の力が働いている可能性があります。一つは、東証が上場維持基準そのものを引き上げたという制度側の変化。もう一つは、投資家や証券会社が「小粒で赤字の上場」を避けるようになったという需要側の行動変化です。

この二つを分けずに「質が上がった」とひとまとめにすると、実は市場が細っているだけなのに、それを成長だと誤読しかねない。

ここに注目した

まず制度側。東証は2025年4月、上場後の維持基準を現行の「10年後に時価総額(会社の株全体についた値段)40億円以上」から、2030年以降は「5年後に100億円以上」へ引き上げる改革案を示し、9月に正式決定した。

豪華な結婚式と、その後の暮らしは別です。企業の買収や上場も、発表の日より、その後に利益を育てられるかが大切です。

黒字化と上場後の成長シナリオを描けない企業は、そもそも上場の土俵に乗れなくなる。実際、赤字のまま上場した企業は24年の12社から25年は3社まで減り、時価総額(会社の株全体についた値段)100億円未満の「小粒上場」も20社と前年比55%減った。

これは企業の稼ぐ力が急に伸びたというより、審査というフィルターの目が細かくなった結果と見るのが素直です。

もう一つの力、投資家側の行動変化も見逃せない。IPO(株式市場への新規上場)件数が過去最多だった2021年ごろは、赤字のままSaaS関連企業が次々に上場した。開発が一巡すれば黒字化は容易だと見込まれていたが、実際には赤字が続き、株価が下がる例が目立った。

その学習効果が、投資家や証券会社を「まず黒字、まず実績」という選別基準に向かわせている。つまり制度と投資家心理という二つの独立した力が、たまたま同じ方向――小粒上場の排除――に働いた結果として、いまの数字が生まれている。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「経営者を見る」「流動性」「構造を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

この二つを分けて考える意味は小さくない。制度基準は一度決めれば当面固定されるが、投資家心理は循環する。数字の改善が投資家心理の側に強く依存しているなら、市場全体が再びリスクを取りたくなった瞬間に、小粒でも赤字でも上場が増える揺り戻しが起きうる。

逆に制度側の締め付けが主因なら、母数の縮小はより構造的で、2030年以降さらに強まる。実際、プライムやスタンダードを含めた国内全体のIPO(株式市場への新規上場)社数も66社と前年比23%減、こちらも12年ぶりの低水準でした。

上場という選択肢自体が細っている可能性を、この数字は示しています。

制度と心理の変化は、資本市場の反応にも波及しています。2025年は時価総額(会社の株全体についた値段)1000億円を超える大型IPO(株式市場への新規上場)がゼロだった一方、公開価格に対する初値の騰落率は平均プラス49%と、前年の38%から改善した。

野村証券の担当者は、資金に余裕のある大型スタートアップほど「上場を急がず事業拡大する」動きが増えたと見る。さらにSMBC日興証券の担当者によれば、これまでグロース市場に見向きもしなかった海外機関投資家が入り始めた。

8月に上場した宇宙新興のアクセルスペースホールディングスには米ブラックロックが投資意向を示し、初値は公開価格の2倍になった。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

ここで踏みとどまるべきなのは、初値が2倍になったことと、その会社が長期的に良い投資先であることは別物だという点です。初値の騰落率は上場した瞬間のポップの大きさであって、その後1年、3年でその株価が持続したかどうかのデータは今回の材料には存在しない。

供給が絞られたところに海外マネーという新しい需要が入れば、需給が逼迫して初値が跳ねるのは当然の現象であり、それ自体は事業の実力を証明しない。「質が上がった」ように見える数字が、実は「数が減ったから相対的に目立った」だけという可能性を、常に疑っておく必要があります。

もう一つの変化として、スタートアップの資金調達手段そのものが多様化しています。M&Aや未公開株の未公開株を途中で売買する取引が広がり、多額の費用と手間をかけてIPO(株式市場への新規上場)をするメリットは相対的に薄れつつある。

26年のIPO(株式市場への新規上場)社数は横ばいという見方が多く、宇宙、ロボティクス、バイオ、サイバーセキュリティーといったディープテック分野からの上場が期待されている。

上場基準の引き上げは、上場企業の質を選別しただけでなく、資本市場からの資金供給ルートそのものを非公開市場側へ押し出しているとも読める。IPO(株式市場への新規上場)の統計だけを見ていると、スタートアップ全体の資金調達環境がどう変わっているかを見落とす。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

冒頭の「41社、4割減」と「102億円、7割増」という数字に戻ろう。この一枚のグラフだけを見て「質の向上」と結論づけるのは、私の物差しでは早計です。制度が絞った希少性のプレミアムなのか、選ばれた企業群の実体的な稼ぐ力なのかは、上場した瞬間の数字では判別できない。

それを確かめる唯一の方法は、上場から1年、3年たった後の株価と資本効率を見ることであり、そのデータはまだこの記事の材料には存在しない。だからこそ今は「新潮流が生まれた」と断定せず、監視対象として持ち越すのが誠実な態度です。

アクセルスペースホールディングスのように、著名な運用会社が名乗りを上げ、初値が公開価格の2倍になった銘柄は、当然話題になります。しかし私が投資の理由にするのは、ブラックロックが買ったからでも、初値が跳ねたからでもない。

小型地球観測衛星というビジネスがシンプルに腹落ちするか、その事業がおもろいと思えるか、経営者の判断や顧客への磁力を自分の頭で理解できるか――そこが軸になります。人気や初値の熱狂は、事業の本質を判断してから確認する材料であって、判断の代わりにはならない。

長期で株を持つとは、株価が跳ねている間じっと我慢することではなく、最初に腹落ちした投資理由が壊れていないかを絶えず問い直すことです。東証の基準がさらに引き上げられる2030年以降、上場できる企業の数はもっと減るかもしれません。

そのとき「質が上がった」という見出しに乗るのではなく、個々の企業の稼ぐ力と経営の中身を自分の物差しで確かめられるかどうかが、この先グロース市場を見るときに問われることになります。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「IPO(株式市場への新規上場)件数4割減、規模7割増――東証改革が生んだ『質の向上』の正体」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2025年、東証グロース市場への新規上場は41社。
  • 制度と心理の変化は、資本市場の反応にも波及しています。
  • 長期で株を持つとは、株価が跳ねている間じっと我慢することではなく、最初に腹落ちした投資理由が壊れていないかを絶えず問い直すことです。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

IPOって何?

IPOは、会社が株式市場へ初めて株を出すことです。上場した日の人気と、会社が長く利益を出せることは別。初値はスタート地点の拍手であって、ゴールの成績ではありません。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。