今日の国際ニュース

出典:The New York Times(Strategies、Jeff Sommer)(https://www.nytimes.com/2024/09/27/business/ai-nuclear-power-stocks.html)

AIのニュースは、数字が大きくて未来っぽい。それだけで、少しワクワクします。でも投資では、ワクワクのあとに一度立ち止まります。

AI株といえばNVIDIAを買うのが素直な発想だが、2024年9月のアメリカ市場ではもう一つの「裏口」が話題になった。原子力発電所を持つ電力会社の株です。象徴的なのは、1979年に事故を起こしたことで知られるスリーマイル島原発の一部が、閉鎖から5年を経て再稼働に向けて動き出したことでした。

しかも名前を変える。クレーン・クリーン・エナジー・センターという、事故の記憶を消すような響きの名前に。原発事故の跡地が、AIブームの新しい主役として蘇ろうとしています。この構図そのものが、今日考えたい違和感の入り口になります。

事実関係を整理すると、9月のS&P500構成銘柄の中でConstellation EnergyとVistraは月間30%を超える上昇でトップクラスの値動きを見せた。

きっかけは9月20日、Constellationがマイクロソフトのデータセンター向けにスリーマイル島原発からの電力供給契約に署名したことです。一方Vistraは、複数のAI事業者と「協議中」だと述べているにとどまり、契約締結の発表はない。

さらに3月には、Talen EnergyとAmazonの間でも同様のAIと原子力をめぐる契約が成立していた。年初来のトータルリターン(配当込み)で見ると、S&P500が22%であるのに対し、Constellationは121%、Vistraは208%、Talenは185%に達しています。

ここに注目した

この数字が何を意味するかを考えたい。Vistraの208%という上昇率は、S&P500の22%のおよそ9.5倍にあたる。だが契約を実際に取ったのはConstellationとTalenであり、Vistraはまだ「話し合っている」段階に過ぎない。

お祭りで目立つのは、真ん中のやぐらです。でも電気や人の流れが止まれば、お祭りは続きません。AI投資でも、主役の周りを支える仕組みまで見ます。

つまり株価が最も跳ねた銘柄が、収益の裏付けという点では最も裏付けが薄い銘柄だったということになります。これは偶然ではなく、市場が反応しているのが「AI電力需要という物語の存在」であって、「その企業が実際に確保した収益」ではないことを示しています。

この需要そのものは実体があります。AIの電力消費は、モデルを訓練する段階と、チャットボットが応答する段階の二つで発生する。Allen Institute for AIの研究者Jesse Dodge氏は、ChatGPTへの1回の質問が電球を約20分点灯させる電力に相当すると見積もっている。

一件の検索がそれだけの電気を食うと考えると、世界中で日々やり取りされているクエリの総量がどれほどの電力を必要とするか、想像しやすくなる。

実際、多くの研究者はAI全体のエネルギー消費がスウェーデンやアルゼンチンといった国一つ分の使用量に近づきつつあり、2030年にはインドを上回る可能性すら指摘しています。

パリセーズ(ミシガン州)やデュアン・アーノルド(アイオワ州)といった停止中の原発の再稼働が検討され、退役予定だった石炭火力発電所まで延命される背景には、この需要の重さがあります。

風力や太陽光といったクリーン電源の建設ペースがこの需要増に追いついていないことも記事は指摘しており、結果として大気汚染や炭素排出という別のコストが積み上がっている。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「AIを使う側」「流動性」「構造を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

ここで投資の因果を一段ずつ分けて確認する必要があります。AI企業側の電力需要拡大という事実は確かにある。だがそれが自動的に電力会社の利益になるわけではありません。Constellationはマイクロソフトという具体的な顧客と契約を結んだことで、需要を収益に変える最初の一歩を踏み出した。

しかしその契約の単価や規模、そしてスリーマイル島の再稼働にかかる設備投資額や完了までの期間、規制対応コストについては、今回の記事には記載がない。

再稼働には相応の資本支出がかかると考えるのが自然だが、その規模が投資家の期待とどれだけ一致しているかは、個々に確認するしかない未解決の論点として残る。Vistraに至っては、契約自体がまだない以上、収益への転化はさらに先の話です。

にもかかわらず株価はConstellationより大きく上昇しています。これは利益成長を織り込んだ株価上昇ではなく、期待そのものが先に株価に織り込まれた状態だと見るべきでしょう。

この記事の中には、その期待に冷や水を浴びせる材料も埋め込まれている。ゴールドマン・サックスは2024年6月に「Gen AI: Too Much Spend, Too Little Benefit?(生成AI、支出過剰・便益過小か)」という懐疑的なレポートを出しています。

AI投資の収益化がどこまで進むか自体が不確実な中で、その二次的な派生商品である原発ユーティリティ株が先に大きく買われているという構図は、需要への賭けの上にさらに賭けを重ねているようなものです。

もしAI投資の収益化ペースがゴールドマンの懸念通りに鈍化すれば、電力需要の伸び自体が想定より緩やかになり、この裏口トレード全体の前提が揺らぐ。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

もう一つ整理しておきたいのは、GAFAM側のAI投資は自己のフリー手元に入るお金の範囲内で行われているためバブルではない、という見方が仮に正しいとしても、それをそのまま電力会社側に当てはめてはいけないということです。

データセンターの電力調達契約を結ぶ側と、実際に停止していた原発を再稼働させ設備投資を行う側とでは、資金調達の構造が異なる。

GAFAM側の投資体力の話と、ConstellationやVistraが再稼働・増設のためにどれだけ外部資金や規制リスクを負っているかという話は、別の論点として切り分けて見る必要があります。

こうして見ると、投資家がこの記事から本当に確認すべきことは、需要が存在するかどうかではなく、需要が誰の契約になり、誰の収益になり、誰のコストになっているかです。今後の点検ポイントは三つある。

まずVistraが実際に拘束力のある契約を、Constellationと比較できる条件で結べるかどうか。次にスリーマイル島の再稼働が計画通りの費用とスケジュールで進むか、それとも規制対応や工事の遅延でコストが膨らむか。

最後に、AI投資そのものの収益化が市場の期待通りに進むか、それともゴールドマンが指摘したように支出が先行し便益が追いつかない状態が続くか。これらはどれも今回のニュース単体では判断できず、今後の開示を追うしかない。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

冒頭に戻ろう。事故の記憶を持つ発電所が名前を変えて蘇り、AIという新しい物語の主役に押し上げられる。その光景自体は面白い。だが私が投資判断で使う物差しは、その物語が話題になっているかどうかでも、株価が9.5倍のスピードで動いたかどうかでもない。

シンプルに腹落ちするかどうか、事業として面白いかどうか、そして自分が理解した事業の本質と投資理由がまだ壊れていないかどうかです。今回で言えば、Constellationは顧客を掴み、電力という具体的な商品を具体的な買い手に売る契約を結んだという点で、事業の実態が一つ進んです。

一方Vistraの208%という上昇は、まだ契約という形になっていない期待そのものの値段であり、それ自体を保有理由にしてしまうと、みんなが買っているから、株価が上がっているから、という理由と変わらなくなる。

長期で持ち続けるかどうかを決めるのは、株価が今日いくら動いたかではなく、当初腹落ちした投資理由――この場合なら「AI電力需要を、誰が実際に収益へ変換できているか」――がまだ生きているかどうかです。契約が失注する、再稼働コストが想定を大きく超える、あるいはAI投資の収益化そのものが鈍化する。

そのどれかが起きたときに初めて、この物差しに照らして持ち続ける理由を見直せばいい。名前を変えた発電所の再稼働という派手な出来事に浮かれるのではなく、その裏で誰の売上とマージンにつながっているのかを数字で追い続けること。それが、このニュースを読んだ後に持ち帰るべき唯一の教訓だと思う。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「原発株が「AIの裏口」になった日に、私が数字で立ち止まった理由」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • AI株といえばNVIDIAを買うのが素直な発想だが、2024年9月のアメリカ市場ではもう一つの「裏口」が話題になった。
  • この記事の中には、その期待に冷や水を浴びせる材料も埋め込まれている。
  • 長期で持ち続けるかどうかを決めるのは、株価が今日いくら動いたかではなく、当初腹落ちした投資理由――この場合なら「AI電力需要を、誰が実際に収益へ変換できてい…
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

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栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。