今日の国際ニュース

出典:The New York Times(https://www.nytimes.com/2023/11/27/us/politics/ai-us-uae-china-security-g42.html)

AIのニュースは、数字が大きくて未来っぽい。それだけで、少しワクワクします。でも投資では、ワクワクのあとに一度立ち止まります。

2023年6月、ホワイトハウスで一つの会談があった。UAEの国家安全保障顧問、シェイク・タノン・ビン・ザイードが訪米し、米側のジェイク・サリバンが切り出したのは、タノン自身が実質支配するAI企業G42についてでした。

CIAをはじめとする米情報機関は、G42がファーウェイなど米国が安全保障上の脅威とみなす中国企業と関係を持っていることに繰り返し警告を発していた。米側が恐れていたのは、米国の先端技術が中国企業や中国政府に横流しされること、そして数百万人分のゲノムデータが中国政府の手に渡ることでした。

この話を「米中AI覇権争いの一事例」として読むだけなら、よくある地政学ニュースで終わる。しかし私がこの記事から見たいのは別の場所にある問いです。政府が民間企業に圧力をかけて調達先を切り替えさせたとき、そのお金は結局どこに流れ着くのか、という物差しです。

ここに注目した

事実として確認できるのは次の流れです。バイデン政権はこの1年、G42に対して中国企業・機関との関係断絶を要求し、制裁の可能性にまで言及してきた。

お祭りで目立つのは、真ん中のやぐらです。でも電気や人の流れが止まれば、お祭りは続きません。AI投資でも、主役の周りを支える仕組みまで見ます。

これを受けてG42自身が声明で認めているのは、まずマイクロソフトとの技術基盤の置き換えを協議し、その後今年、スーパーコンピュータのアップグレード先としてCerebrasとNvidiaを選んだという事実です。G42の言葉を借りれば「中国製ハードウェアを含む従来の技術供給元」からの移行です。

ここで一段深掘りしたいのは、安全保障上の圧力が需要の付け替えという経済現象に変換された、という構造そのものです。地政学リスクという抽象的な話が、Cerebras・Nvidiaという固有名詞の受注機会に変わった瞬間がここにある。

規制した政府でもなく、規制されたG42でもなく、代替供給網の出口を握っていた米半導体企業こそが、この圧力の経済的な受益者になり得る位置にいる。

これが今回の記事から立てられる仮説であり、私が以前から持つ「AI投資は設備投資が自己資金化された構造革命である」という中心命題を補強しうる、新しい伝達経路の候補として扱いたい。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「AIを使う側」「国家戦略」「経営者を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

ただしここで立ち止まる必要があります。この記事には、G42がCerebrasやNvidiaに実際いくら発注したのか、その金額や数量は一切書かれていない。売上として計上されたのか、受注残に積み上がっているのかも分からない。

政府支出や需要移管の意図が語られているだけで、それが企業の決算やバックログという事実に転化したかどうかは、まだ確認されていない。政府の圧力が強まること、企業が調達先を変えると表明すること、実際にその企業の売上や利益率が動くこと、その間にはそれぞれ別の橋があります。

この橋を渡り切って初めて、投資家にとって意味のある話になります。

投資家として見るべき変数は三つある。一つ目は、CerebrasやNvidiaの今後の決算やIR資料で、中東の政府系AI企業からの受注が実際にバックログや売上として姿を現すかどうかです。

二つ目は、米政権のG42への圧力が制裁や輸出規制という実効措置に進むのか、それとも今のような交渉段階に留まるのかです。三つ目は、サウジアラビアのような他の湾岸系AIファンドも同様に中国製ハードウェアから米国製へ切り替える動きを見せるかどうかです。

もしこの連鎖が広がれば、米半導体企業への需要移管は一過性のニュースではなく、構造的なトレンドに育つ可能性があります。広がらなければ、今回の話は一件の地政学イベントで終わる。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

同時に見落としてはいけない逆説もある。もしG42のような地政学的にリスクの高い顧客からの受注が米半導体企業の売上として計上されたとしても、それは規制リスクを内包した需要です。将来、米国がUAE向けの輸出規制を強化すれば、同じ経路をたどって今度はその需要そのものが消える可能性があります。

政府の政策が需要を作ることもあれば、消すこともある。この記事はその両方の力が同じ場所に働いていることを教えてくれる。

さて、冒頭に戻ろう。タノンはサングラスを好み、853億ドル規模の政府系ファンドを率い、UAEで最も有力な人物の一人です。G42は表向き、AstraZenecaとの提携やOpenAIとのパートナーシップ、Dellとの巨大契約を次々と発表し、華々しい成長物語を演出しています。

だが私が投資判断の物差しにしたいのは、この派手な発表でも、地政学ニュースの緊張感でもない。シンプルに腹落ちするかどうか、ビジネスとして面白いかどうか、経営者がおもろいかどうかという、いつもの物差しです。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

G42が有名だから、話題になっているからという理由でNvidiaやCerebrasを買う理由にはならない。買うとすれば、半導体という事業そのものが持つ本質、つまり誰が最先端の演算資源への出口を握っているかという競争優位に納得できるかどうかです。

そしてこの記事が教えてくれるのは、その競争優位が地政学的圧力という形でも顧客を引き寄せる磁力になり得るということです。だがその磁力が実際の受注や利益率に変わったかどうかは、決算という事実でしか確認できない。

長期で株式を持ち続けるというのは、G42のニュースに一喜一憂して売買することではありません。むしろ、当初腹落ちした事業の本質と投資理由が壊れていないかを、決算や規制の実際の展開で定点観測し続けることです。株価が地政学ニュースに反応して動いたとしても、それ自体は投資理由にならない。

投資理由そのものが変わったかどうかを、今回のニュースはこれから数四半期かけて教えてくれるはずです。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「UAEのAI企業への米国の圧力から考える、規制が生む本当の受益者」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2023年6月、ホワイトハウスで一つの会談があった。
  • 投資家として見るべき変数は三つある。
  • 長期で株式を持ち続けるというのは、G42のニュースに一喜一憂して売買することではありません。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

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AIには半導体、電気、データセンター、人材が必要です。画面の中だけを見るのではなく、裏側の工場まで想像すると、お金がどこへ流れるかが見えやすくなります。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。