今日の国際ニュース

出典:The New York Times(Paul Krugman, Opinion)(https://www.nytimes.com/2023/09/29/opinion/natural-interest-rate-higher.html)

金利や税金のニュースは、むずかしい言葉が並びます。でも最後に動くのは、私たちの財布と企業のお金です。

2023年9月末、ノーベル経済学賞受賞者でニューヨーク・タイムズのコラムニストであるポール・クルーグマンが、自分自身の経済観について「バイアスがあるかもしれないので、私を信用しすぎないでほしい」と書いた。

長年、金利は低く需要不足が慢性化するという「長期停滞(secular stagnation)」派の代表格として発言してきた本人が、いま起きている金利上昇を「一時的なものだ」と見たいのは、自分の願望のせいかもしれないと自ら疑いを表明したのです。

ここに注目した

この率直さは経済コラムとしては珍しい。だが投資家にとって重要なのは、クルーグマンが謙虚だったという美談ではありません。「なぜ金利が上がっているのか、専門家にも説明できていない」という空白そのものが、いま実質金利という物差しの上で起きているという事実です。

家計簿で大切なのは『節約する』という宣言ではなく、月末にお金が残ったかどうかです。国や企業の数字も、宣言と結果を分けて見ます。

記事によれば、インフレはすでにほぼ制圧されつつある。FRBが重視する基調インフレ指標は直近3カ月で年率2.2%まで下がり、目標の2%にほぼ戻った。ところが同じ時期に、長期金利は2008年の金融危機以来の高水準まで跳ね上がっている。

インフレが収まっているのに金利が上がるのは矛盾に見えるが、ここに絡繰りがあります。物価連動債との投じたお金に対する収益の割合差(ブレークイーブン・レート)を見る限り、市場はインフレ再燃を心配していない。

上がっているのはインフレ期待ではなく「実質金利」そのものであり、コロナ前は1%未満だった実質金利は、いまや2%を超えている。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「AIを使う側」「流動性」「構造を見る」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

これは単なる数字の変化ではありません。実質金利が経済の長期成長率を上回るかどうかは、サマーズやブランシャール、クルーグマン自身が長年支えてきた「実質金利が成長率より低ければ(r<g)政府債務は問題にならない」という財政運営の前提を左右する。

実質金利が成長率を超えれば、この前提は崩れ、先進国の財政運営そのものが再び「借金は返せるのか」という論点に引き戻される。

金利の「本当の水準」を測るFRB内部のモデルでも見解は割れている。ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁は2023年5月、自然利子率(r-star)は「パンデミック前とほぼ同じ水準」だと述べた。

一方でリッチモンド連銀の推計はもっと高い水準を示しており、債券市場はどちらかといえばリッチモンドの見方を織り込んでいる。だがなぜ自然利子率が上がったのか、クルーグマン自身が「その根拠は正直、心もとない」と書いている。

投資家がr-star上昇を織り込んでいる理由は、「利上げをしてもここまで経済がびくともしなかったのだから、何かが変わったに違いない」という結果からの逆算にすぎず、原因そのものは特定できていない。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

ここでひとつ、検証されていない仮説を置いてみたい。パンデミック前の実質金利低下を説明してきたのは「生産年齢人口の伸び鈍化、住宅・工場・オフィス投資の需要減少、金利低下」という人口動態を軸にした単線的なモデルでした。

クルーグマン自身、1990年代から人口減少に直面した日本をこの理論の先行例として扱ってきた。だがこの物差しは人口動態という需要側の変数だけを見ており、AI関連のデータセンターや半導体、電力インフラという、人口動態とは別の巨大な資本需要が新たに立ち上がっている可能性を勘定に入れていない。

大手テック企業群が、借入を膨らませるのではなく自社の手元に入るお金の範囲内で設備投資を積み増している構図がもし実質金利の底上げに寄与しているとすれば、それは人口が減っているのに金利が下がらない理由の一端を説明しうる。

ただしこれはクルーグマンの記事の中に直接の裏付けがあるわけではなく、あくまで監視対象の仮説にとどめておく必要があります。金利上昇の主因がAI投資需要なのか、それとも金融政策の効果が単に遅れて現れているだけなのか、現時点では判定できない。

同様に、日本を「人口動態が金利を下げた事例」として一括りにする語り方にも注意がいる。日本の長期停滞は人口減少だけでなく、企業が値上げよりコスト削減を選び続け、稼いだ資金を投資にも賃金にも十分回さずに抱え込んできた、分配構造の問題を伴ってきたという見方もある。

人口という一つの変数に還元してしまうと、日本という先行事例から学ぶべき教訓を見誤る恐れがあります。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

投資家がここで整理すべきなのは、「政府支出や資本需要が拡大している」ことと「特定企業の受注・売上・利益として実際に取り込まれているか」はまったく別の話だという点です。今回のクルーグマンの記事には、AI関連企業の受注や利益、株価、資金フローについてのデータは一切出てこない。

実質金利の上昇がグロース株や高PER株のバリュエーション、つまり将来利益を現在価値に割り引く際の分母を圧迫しやすいことは一般論として言えるが、それが実際にどの銘柄の株価にどう反映され、資金がどのセクターに流入しているかは、この記事の範囲では確認できない。

もし実質金利の高止まりが長期化すれば、r<gを前提にしてきた財政運営の議論が再燃する可能性、そして自己資金で投資を続けられる体力のある企業と外部資金に頼る体力のない企業との差がさらに広がる可能性の二つは論理的な帰結として考えられるが、これも現時点では推論であり、確認された事実ではありません。

投資家がすべきは、この先の決算やマクロ統計でこの仮説が裏付けられるか反証されるかを継続的にチェックすることです。

冒頭のクルーグマンの告白に戻りたい。彼は自分の理論的立場を明かした上で、「金利急騰は一時的だと信じたい自分がいるので、私を鵜呑みにしないでほしい」と書いた。これは経済学者としての誠実さであると同時に、投資家が見習うべき態度でもある。

ニューヨーク連銀とリッチモンド連銀のどちらのr-star推計が正しいかという論争は、今後も続くでしょう。しかし長期投資家がその論争の決着を待つ必要はない。

重要なのは、金利がどちらに動こうと、自分が投資している事業の本質、たとえば借金を膨らませてAI投資をしているのか、それとも稼いだキャッシュの範囲内で投資をしているのかが変わっていないかどうかです。

設備投資が自己資金の範囲に収まっている限り、それは金利変動という外部環境の話であって、事業の競争優位そのものが壊れたという話ではありません。

逆に、もしその企業が実質金利の上昇に耐えられず借入コストの急増で投資計画そのものを縮小し始めたなら、それは「金利が上がったから株価が下がった」という表面的な話ではなく、投資理由そのものが崩れたサインとして扱うべきです。

r-starの論争に一喜一憂するのではなく、金利という物差しの向こう側にある、その企業は何で稼ぎ、何に投資し、その原資はどこから来ているのかを見続けること。それが、今回のクルーグマンの告白から引き出す、長期投資の物差しです。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「「なぜ金利は元に戻らないのか」――クルーグマンの告白に学ぶ、経済論争を投資判断にしない技術」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2023年9月末、ノーベル経済学賞受賞者でニューヨーク・タイムズのコラムニストであるポール・クルーグマンが、自分自身の経済観について「バイアスがあるかもしれ…
  • 金利の「本当の水準」を測るFRB内部のモデルでも見解は割れている。
  • 冒頭のクルーグマンの告白に戻りたい。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

大きな経済数字は、自分の財布へ戻して考える

金利やGDPは遠い話に見えます。でも住宅ローン、商品の値段、会社の借入費用へつながっています。難しい数字ほど『誰の支払いが増えるの?』と聞くと、少し身近になります。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。