今日の国際ニュース

出典:The New York Times(https://www.nytimes.com/2023/09/14/technology/arm-ipo-stock-market.html)

このニュースを読んだとき、私は見出しの大きさより、その裏で実際に動くお金が気になりました。

英国の半導体設計会社アームがナスダックに上場した初日、株価は公開価格51ドルに対して56.10ドルで始まり10%高、終値は63.59ドルまで上がって25%高で取引を終えた。完全希薄化ベースの時価総額(会社の株全体についた値段)は679億ドル。

2023年の米国IPO(株式市場への新規上場)市場はリーマン後の2009年以来最悪とされ、年初来の上場件数はわずか73件、調達額は148億ドルにとどまっていた。ピーク時の2021年は397件、調達額1420億ドルだったから、148億ドルという数字はその1割にも満たない水準です。

ピッチブックによれば、本来なら上場していてもおかしくない企業が約200社、順番待ちのまま滞留しているという。だからこそアームの25%高は「凍りついたIPO(株式市場への新規上場)市場が溶け始めた合図」として、来週上場予定のInstacartやKlaviyoへの追い風だと受け止められた。

ここに注目した

ここで立ち止まりたい。25%という上昇率は、本当に市場全体の需要が戻ってきた証拠なのだろうか。アームの株主構成を見ると、ソフトバンクは上場後も約90%の株式を保有し続けている。孫正義CEオは「できる限り長く、できる限り多く保有するつもりだ」と述べた。

ニュースの見出しは、映画の予告編のようなものです。面白そうでも、結末までは分かりません。投資では、その先の数字を確かめます。

つまり679億ドルの時価総額(会社の株全体についた値段)のうち、市場で自由に売買できる浮動株は理論上せいぜい1割程度しかない。株価というのは、買いたい人と売れる株数のバランスで決まる。売れる株がもともと少なければ、それほど大きな需要がなくても価格は急騰しうる。

25%高という数字は「多くの投資家が殺到した結果」なのか、「そもそも売り物が極端に少なかった結果」なのか、この記事の情報だけでは区別できない。そして後者だとすれば、アームの値動きをIPO(株式市場への新規上場)市場全体の体温計として使うのは筋が違うことになります。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「AIを使う側」「経営者を見る」「流動性」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

この記事はもう一つ重要な流れを示しています。金利上昇とインフレによって投資家はリスクを取りにくくなり、成長スピードより利益を出せるかどうかを重視するようになった。アーム、Instacart、Klaviyoがそろって自社の黒字を強調したのは、その規律の表れです。

ただしInstacartの想定評価額は86億〜93億ドルで、かつての非公開評価額390億ドルを大きく下回る。Klaviyoも非公開時の95億ドルをやや下回る水準からのスタートでした。ここに、アームとは違う情報があります。

InstacartとKlaviyoは浮動株制限のかかっていない銘柄であり、投資家が実際にいくらまで払う気があるかをそのまま映す。だからこの二社の値付けと上場後の推移こそが、需要が本当に戻ったかどうかの実測値になります。アームの株価が上がったこと自体は、その検証にはならない。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

2021年に鳴り物入りで上場した企業のその後も見ておく必要があります。評価額25億ドルだった電動スクーターのBirdは時価総額(会社の株全体についた値段)1100万ドルまで沈み、評価額400億ドルだったWeWorkは約2億7000万ドルまで縮んです。

この記憶がある投資家たちが、今は「利益を出せる会社かどうか」を先に問うようになっている。この規律が続くなら、スタートアップの資金調達の作法自体が変わり、黒字化を先に証明してから上場するという順番が標準になっていくかもしれません。

それは約200社の上場待ち企業やその出資者であるベンチャーキャピタルの出口設計にも影響してくる。ただしこれは記事の事実から導ける仮説であり、確定した事実ではありません。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

投資家として次に見るべきものは、アームの浮動株を考慮した実際の出来高や売買代金の推移、InstacartとKlaviyoの上場結果とその後のパフォーマンス、そして200社の滞留がどのくらいのペースで解消されていくかです。

もしInstacartやKlaviyoも上場後にアームと同じような堅調さを見せるなら、需要回復説のほうが正しかったことになります。逆に両社の評価が低いままで、アームの株価だけが特殊な高値を維持し続けるなら、今回の25%高は需要ではなく供給の細さが生んだ値動きだったと考えるべきです。

この記事の時点では、どちらの答えもまだ出ていない。

アームの半導体設計図をアップル、グーグル、サムスン、エヌビディアがライセンスして使っているという事業の形、そして一度は買収を試みたエヌビディアの案が規制と顧客の反発で潰れたという経緯は、この会社が業界の土台に食い込んだポジションを持っていることを示しています。

もし自分がアームに投資する理由を持つとしたら、それは25%高になったからでも、話題になったからでもなく、この設計図ビジネスの構造そのものに腹落ちできるかどうかのはずです。シンプルに理解できるか。経営者である孫正義が「できる限り長く持ち続ける」と言い切る姿勢はおもろいと思えるか。

有名だから、みんなが買っているから、株価が上がっているからという理由で乗るのは、この記事が教えてくれた供給の細さの罠に自分からはまりにいくようなものです。

長期で持つというのは、初日の株価に振り回されないことであり、同時に、自分が最初に腹落ちした事業の本質や競争優位が崩れていないかを定点観測し続けることでもある。

アームについて確認すべきは今日の株価ではなく、これから発表されるライセンス収入や利益率の推移であり、IPO(株式市場への新規上場)市場について確認すべきはアームの一本の値動きではなく、浮動株の制約を受けないInstacartやKlaviyoの値付けです。

そこを混同しないことが、この記事から持ち帰るべき唯一の物差しになります。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「Arm株25%高というニュースの、正しい読み方」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 英国の半導体設計会社アームがナスダックに上場した初日、株価は公開価格51ドルに対して56.10ドルで始まり10%高、終値は63.59ドルまで上がって25%高…
  • 2021年に鳴り物入りで上場した企業のその後も見ておく必要があります。
  • アームの半導体設計図をアップル、グーグル、サムスン、エヌビディアがライセンスして使っているという事業の形、そして一度は買収を試みたエヌビディアの案が規制と顧…
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

寄り道コンテンツ

ニュースと投資判断の間に、一呼吸おく

良いニュースが出た会社が、良い投資先とは限りません。ニュースは入口。最後は、事業が自分の言葉で説明できるか、経営者に共感できるか、10年持つ姿を想像できるかを確かめます。

栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。