今日の国際ニュース

出典:日経電子版(会員限定記事/日経産業新聞)(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1936K0Z10C23A8000000/)

AIのニュースは、数字が大きくて未来っぽい。それだけで、少しワクワクします。でも投資では、ワクワクのあとに一度立ち止まります。

2023年9月8日、日経産業新聞にひとつの記事が載った。データ分析会社ブレインパッドが、企業向けの生成AI導入支援サービスを始めたという内容です。簡易的な利用であれば、約1カ月で使える環境を構築できるという。

社内にはLLM研究プロジェクトを立ち上げ、技術動向の調査やガイドライン策定、独自アプリの開発にも取り組んでいる。資本業務提携先の伊藤忠商事とも、生成AI関連のプロジェクトを進めているという。一見すると、生成AIブームに乗ったよくある企業ニュースの一つに見える。

しかし、この記事で本当に読むべき部分はサービス概要ではありません。後半に置かれた、関口朋宏CEOへのインタビューです。彼はこう語っている。生成AIの事後学習、いわゆるファインチューニングには企業のデータが必要であり、結局は社内のデジタル化が進んでいるかという問題に戻ってくる、と。

以前のAIブームで課題になったのは、情報が紙で管理され、データを取り込むのに時間がかかったことでした。同じ轍を踏むべきではない、とCEOは明言しています。

ここに注目した

これは注目に値する発言です。生成AIを売っている会社のトップ自身が、自社の商品の効果を、顧客側の地味な前提条件に従属させていると認めているからです。世間の通説は、生成AIを導入すれば即座に業務効率化や競争力向上につながる、というものでしょう。だがCEOはこの通説に反証しています。

お祭りで目立つのは、真ん中のやぐらです。でも電気や人の流れが止まれば、お祭りは続きません。AI投資でも、主役の周りを支える仕組みまで見ます。

ビジネスインパクトを出すには業務フロー全体をデザインし直す必要があり、そのデザインの土台になるのは社内データがデジタル化・構造化されているかどうかです。ここが未整備な企業がいくら生成AIに投資しても、ファインチューニングは機能しない。

技術投資は独立変数ではなく、地味なデータ基盤投資という前提条件の後にしか効果を発揮しない従属変数なのです。

この構図を、投資の伝達経路として辿ってみる。カタリストは2023年の生成AIブームで、企業の関心が急速に高まったことです。この関心がブレインパッドのような、導入支援・環境構築を担う中間工程の需要を生み、実際に新サービスという形で受注機会を得ている。ここまでは記事から確認できる事実です。

しかし次の段階、つまりこの需要拡大がどれだけ実際の売上や利益に転嫁されているかは、この記事には一切書かれていない。契約件数も、売上への寄与額も非開示のままです。

ひまりのメモ
ひまりのメモ帳

目の前の値動きだけで一喜一憂せず、このニュースを「AIを使う側」「経営者を見る」「流動性」の視点から、長い時間軸で見るのがポイントです。

なぜ重要なのか

コスト構造にも目を向けたい。ブレインパッドが売っているのは計算資源ではなく、コンサルタントの知見と人件費です。生成AIブームでよく語られる電力やGPU不足によるインフレという論点は、この会社にはそのまま当てはまらない。

むしろボトルネックは、導入企業側のデータ整備という、地味で時間のかかる作業にある。需要が伸びても、それがそのまま利益率の改善につながるとは限らない。

CEOが懸念しているのはまさにここで、データ未整備のまま生成AI投資に踏み切る企業が増えれば、個別プロジェクトの失敗が積み重なり、企業の生成AI投資サイクルそのものが失速するリスクがあります。

投資家にとって重要なのは、生成AI関連の需要が増えているという事実と、それが株価やバリュエーションにどう反映されているかは別問題だ、ということです。今回のソースには、ブレインパッドの株価や時価総額(会社の株全体についた値段)、資金フローに関する情報は一切ない。

市場がすでに期待を織り込んでいるのか、まだなのかは、この記事の情報だけでは判断できない。ここは投資家が別途確認すべき変数であり、断定はできない。

初心者は何を理解すればいいか

ここは、三つに分けると分かりやすくなります。

この見立てが崩れる条件も明確にしておく。もし簡易導入から本格導入への移行率が高く、データ未整備の企業でも生成AIが機能する事例が積み上がれば、CEOの懸念は杞憂に終わる。逆に移行率が低く失敗事例が積み重なれば、この見立ては補強される。この移行率データこそ、今後追うべき指標です。

冒頭に戻ろう。ブレインパッドが生成AI導入支援を始めた、というニュースだけを見れば、多くの人は「またAI企業が出てきた」という程度の印象で終わるかもしれません。だが本当に面白いのは、その会社のトップが自社の商品の限界を正直に語っている点です。

全て技術で解決できると考えるべきではない、と言い切れる経営者は、実は多くない。

今日、投資行動を変える必要は?

ありません。今日学びたいのは、銘柄ではなくニュースの見方です。

長期で投資を考えるとき、私が大事にしているのは、流行っているか、株価が上がっているかではありません。シンプルに腹落ちするか、経営者がおもろいか、事業の本質は何か、ということです。

ブレインパッドの面白さは、生成AIという流行の波に無条件で乗ることではなく、その波に乗る前に顧客のデータが片づいているかという地味な前提条件を正直に指摘し、そこに事業の軸足を置いていることにある。これは短期の株価材料にはなりにくいが、長期での事業の耐久性を測る物差しにはなる。

生成AI関連というテーマで投資判断をするとき、株価が上がっているから、話題になっているからという理由で飛びつくのは、この物差しには合わない。

確認すべきは、その企業が売る生成AIの価値が、顧客側のデータ基盤という前提条件に対してどれだけ現実的な解決策になっているか、そしてその前提が今も壊れていないかです。

ブレインパッドを持つにせよ持たないにせよ、判断基準は生成AI人気ではなく、データ基盤という地味な土台への向き合い方であるべきでしょう。もしこの会社が将来、データ整備を軽視し、技術の魔法だけを売り始めたら、それは投資理由そのものが壊れたサインとして受け取るべきです。

5分で分かるまとめ

  • 今回のニュースは「ブレインパッドが投げかけた問い 生成AIより先に、データは片づいているか」です。見出しだけで投資判断はしません。
  • 2023年9月8日、日経産業新聞にひとつの記事が載った。
  • 投資家にとって重要なのは、生成AI関連の需要が増えているという事実と、それが株価やバリュエーションにどう反映されているかは別問題だ、ということです。
  • 生成AI関連というテーマで投資判断をするとき、株価が上がっているから、話題になっているからという理由で飛びつくのは、この物差しには合わない。
  • 今日すぐに投資行動を変える必要はありません。数字と構造を定点観測します。
  • 最後は、その事業と経営者に共感でき、自分の言葉で腹落ちするかを確かめます。

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栄枯盛衰、諸行無常。今日の人気が、10年後も続くとは限りません。だから私は、値動きより事業と経営者を見ます。自分で腹落ちするものを、長い時間軸で考えていきましょう。